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ケース3 山奥の事故物件【出題編】

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 冥の言葉を聞いてから、資料のどこに情報があるのかを探す一里之。後手後手に回ってしまっているような感じは否めない。もっとも、自分に資料が回ってくるのが意外と遅いというのが問題なのだが。

 磯崎がオーナーの妻である優子に想いを寄せていたことは間違いないらしい。他の常連客からの情報であり、そのような証言が複数あったようだ。ただ、不倫だとかそういうものではなく、磯崎が一方的に想いを寄せていただけみたいだ。これは、警察から確認された本人が認めている。

「旦那が邪魔になって殺したってか? そいつは分かりやすくていいな」

 殺人事件の話をしているというのに、なぜに鯖洲の言葉は軽く聞こえてしまうのだろうか。すでに起きてしまった事件を掘り返すような形になるから、当事者意識がないのだろう。いや、実際に当事者でもなんでもないのだが。

「――他にも動機がある方がいるみたいですね」

 資料を預かっている身としては、冥にお株を奪われるわけにはいかない。たまたま目に入った情報を口にする。

「扉を壊した常連客――岩尾という男なんですが、どうやらオーナーに借金があったみたいですね。どうして借金なんてしたのかまでは分かりませんけど」

 資料によると、岩尾は小さいながらも自分で事業をしていたようだ。しかしながら、その事業も事件後に立ち行かなくなったようだ。いくら借金していたのかは分からないが、オーナーに金を返す余裕なんてなかっただろう。

「か、借りた金を返せないから、その相手を殺すだなんて、自分勝手極まりないですね。ねぇ、お嬢様――」

 とにかく会話に混じろうと思ったのであろう。寺山が口を挟んでくるが、自分が場違いな発言をしたとでも思ったのか、コトリに同意を求める。

「でも、お金のために人を殺せる方もおられる世の中。自分勝手であろうとも、岩尾という人物にも動機があったことは間違いありませんわ」

 コトリからのフォローらしきものが入ったからであろう。寺山は明らかに安堵の溜め息らしきものを漏らした。一里之が資料をめくると、興味深い情報の羅列を見つける。どうやら――今回の事件は全員が怪しいらしい。

「宿泊客の堀田と、その連れの美亜という女性は、どうやら不倫関係にあったようです。堀田は既婚者であり、この山荘を不倫相手との密会に使っていたみたいですね」

「不倫のために、これだけの山奥に来るとか、よほどの物好きか馬鹿だな」

 一里之の言葉に鯖洲が茶々を入れる。確かによほどの物好きというか、徹底しているというか。
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