ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース3 山奥の事故物件【出題編】

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 軒下で煙草に火を点けた一里之と鯖洲の脇を通り抜け、コトリは山荘の側面のほうへと移動する。まるで金魚のフンであるかのごとく、寺山が彼女の後を追った。執事――という職業も大変である。もっとも、お嬢様がどこに行こうが、隣で煙草の煙をうまそうに吸い込む雇われ執事もいるわけだが。

「お嬢に振り回されて、よくも嫌にならねぇもんだな。俺はたまに相手するだけでいいから我慢できるが、あれが毎日となったら考えるわ。さすがに」

 どこか掴みどころがなく、また天然が入っているコトリ。事故物件に執着するという異常な趣味を持っている彼女について回るのは、それなりに大変であろう。鯖洲の言う通り、たまに――というならばまだしも、毎日付き合うことを考えると頭が痛い。

「だったら、たまの機会くらい、もう少し仕事をされたらどうです?」

 少し離れたところで電子煙草をくわえる冥の、実に手痛い一言。言い返す言葉がない。鯖洲も同様らしく、吸い殻を携帯灰皿の中に突っ込むと、わざとらしく一里之の肩を叩いてきた。

「よし、俺達もいっちょ仕事をするか。誰かさんにケツを叩かれる前によ!」

 すでにケツを叩かれた後なのだが、そんなことはなかったかのごとく切り替えを見せる鯖洲。間違いなく、冥の言葉は耳に入っていただろうし、わざと聞こえていなかったふりをしているだけなのであろう。

 冥の大きな溜め息を尻目に、煙草を消した一里之は鯖洲と一緒にコトリのところへと向かう。雨が酷かったせいもあり、足元がかなり悪くなっている。草刈りをあらかじめしていたことが救いだった。もし、この状況を見越して草刈りをしていたのであれば、冥はとんでもない先見の明をお持ちのようだ。

 山荘の隣には、文字通りの掘立て小屋があった。事件があった後、扉は修復されたらしい。その扉を開いて、コトリが中を覗いているところだった。扉は外開きのようだ。

「あ、ねぇセバスチャン、それに一里之君。ちょっと見てご覧なさいな」

 2人の気配に気づいたらしく、振り返ったコトリが手招きをしてくる。彼女の側近である寺山は、自分よりも鯖洲や一里之が優遇されているようで面白くないのであろう。鋭い視線をこちらに向けていた。

「なんだよ、満面の笑みを浮かべてよ――」

 なんだかんだで優越感なのであろう。口では面倒臭そうにしながらも、笑みを浮かべつつコトリの元へと向かう鯖洲。一里之も呼ばれた身であるから、鯖洲に続く。
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