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ケース3 山奥の事故物件【出題編】

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「この様子では、薪割り小屋を見に行くことはできないようですわねぇ」

 雨が屋根に叩きつけられる音に混じって、コトリの呑気な言葉が聞こえた。現場となった薪割り小屋に向かうには、一度外に出なければならない。当たり前だが、山荘と繋がっている――なんてことはないだろう。そもそも、資料によれば、薪割り小屋はオーナーの手作りなのだから。

「この天気じゃ外に出る気にはならねぇな。まぁ、山の天候は変わりやすいから、しばらくしたら晴れるかもしれねぇがよ」

 鯖洲の言葉にコトリは小さく頷く。その瞳には、期待のようなものが宿っているように思える。事故物件に異常な執着を見せる彼女の本心は、果たしてどこにあるのだろうか。

「今日はこの談話室にて過ごすことになるでしょう。――どんなものを調達してきたのか確認させてもらっても?」

 冥の言葉に頷くと、彼女はリュックサックの中身の物色を始めた。寺山はこうしてコトリに同行するのは初めてなのであろう。何をしていいのか分からないようで、ただただ周囲の動きに合わせて視線を動かすばかりだった。

 雨は相変わらず止まず、時間だけが過ぎて行く。冥は談話室の環境を整えるために、一里之と鯖洲が背負っていたリュックサックの中身を整理し、また鯖洲に指示を出して環境を整える。事件の概要を知りたいというコトリの願いを聞いて、一里之はリュックの奥底に眠っていた資料を読み上げる。資料をファイリングするファイルは厚みを増すばかりだ。

 談話室に置かれたランタンに明かりが灯る。思っていた以上に周囲が暗くなっていたのか、随分と明るく、そして暖かく思えた。冥はリュックサックの中にあった食材と、飲料用の水を手に取ると、談話室の外へと出ていった。追いかけるような真似はしないが、きっとキッチンに向かったのだろう。客相手に商売をしていた山荘だ。食事だって出していただろうし、そのための設備もあるはずだ。ただし、インフラ関係は使えないはずである。鯖洲のリュックサックの中に入れてあった、簡易式のカセットコンロが役立ちそうだ。

 辺りはすっかりと暗くなり、そして雨はまだ止まない。冥がインスタント食品をうまい具合に調理して、夕食をこしらえてくれた。主にインスタント食品をメインに作られた料理に、寺山はやや懐疑的な態度を見せる。コトリにインスタント食品を出すとは何事だ――と言わんばかりの態度であったが、それを一口食べて黙った。そのクオリティーに驚いたのであろう。その場にあるものだけで、こんなに美味いものを作れる冥のスキルには脱帽する。
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