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ケース3 山奥の事故物件【出題編】
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「セバスチャン、あまり意地悪を言ってはいけませんわ。寺山も仲間に入れて差し上げなさい」
冥に続いて歩き出していたコトリが鯖洲に釘を刺すが、しかしその言葉は鯖洲が待っていたものらしい。寺山は何も言い返しはしないが、その視線を鯖洲のほうへと向けていた。あれだ。小学校の先生による「みんな仲良くしなさい」宣言を受けたようなものだ。
「――仕方ねぇなぁ。軒先くらいは貸してやるよ。ちなみに、飯とかは自分でなんとかしろよな」
鯖洲はにやにやとしながらもコトリの言葉を受け入れる。どう見ても寺山は手ぶらであり、荷物らしい荷物は何ひとつ持っていない。いくら鯖洲と寺山が犬猿の仲だとしても限度というものがあるだろう。
「あの、もし良かったら俺のリュックの中のものを分けますんで――」
小さくなる鯖洲の後ろ姿を見守りつつ、一里之は寺山に慈悲の心を向けた。さすがにかわいそうである。
「お心遣い感謝いたします。しかしながら、今はお気持ちだけをいただいておくことにしましょう。どうにもならなくなったら頼らせていただきますので」
寺山はその厳しそうな表情に、ほんの少しだけ笑みを浮かべると、鯖洲を追いかけるように早足で山荘のほうへと向かう。はるか向こう側で、抜かれまいと歩く速度を早めた鯖洲と、追い抜いてやろうと、さらに歩く速度を早めた寺山の小競り合いが始まった。なるほど、突き詰めたところ、両者共に大人になれていないということか。鯖洲はまだしも、寺山に関しては意外な一面だった。
途中で坂を降りられなくなったコトリを、どちらがおぶるかで揉めた挙げ句、じゃんけんで勝利した鯖洲がコトリをおんぶして坂を下り、最後尾の一里之がやや呆れながらも山荘に戻った頃には、いよいよ雨も本降りとなり始めていた。
「できることなら簡易シャワーでも設置したいところでしたが、水の量に限りがありますので見送っております。お召し物の替えはあらかじめ用意してありますので、中でお着替えになってください」
中から戻ってきた冥は、相変わらずコトリファーストである。彼女のおかげで、お世話係の仕事もかなり楽だ。本来ならば、そこまで一里之が手回しをしなければならないのかもしれないが、残念ながら気の利くタイプではないことくらい自覚している。素直に冥の手際の良さに甘えるばかりだ。
「こりゃ本格的に降ってきやがったな。崖崩れとか起きないだろうな」
軒下に入って煙草に火を点ける鯖洲。山荘の中に入ろうにも、おそらくコトリが着替えるからであろう。冥が玄関の前に立ちはだかる。しかたがなく、鯖洲にお供することにした。
冥に続いて歩き出していたコトリが鯖洲に釘を刺すが、しかしその言葉は鯖洲が待っていたものらしい。寺山は何も言い返しはしないが、その視線を鯖洲のほうへと向けていた。あれだ。小学校の先生による「みんな仲良くしなさい」宣言を受けたようなものだ。
「――仕方ねぇなぁ。軒先くらいは貸してやるよ。ちなみに、飯とかは自分でなんとかしろよな」
鯖洲はにやにやとしながらもコトリの言葉を受け入れる。どう見ても寺山は手ぶらであり、荷物らしい荷物は何ひとつ持っていない。いくら鯖洲と寺山が犬猿の仲だとしても限度というものがあるだろう。
「あの、もし良かったら俺のリュックの中のものを分けますんで――」
小さくなる鯖洲の後ろ姿を見守りつつ、一里之は寺山に慈悲の心を向けた。さすがにかわいそうである。
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寺山はその厳しそうな表情に、ほんの少しだけ笑みを浮かべると、鯖洲を追いかけるように早足で山荘のほうへと向かう。はるか向こう側で、抜かれまいと歩く速度を早めた鯖洲と、追い抜いてやろうと、さらに歩く速度を早めた寺山の小競り合いが始まった。なるほど、突き詰めたところ、両者共に大人になれていないということか。鯖洲はまだしも、寺山に関しては意外な一面だった。
途中で坂を降りられなくなったコトリを、どちらがおぶるかで揉めた挙げ句、じゃんけんで勝利した鯖洲がコトリをおんぶして坂を下り、最後尾の一里之がやや呆れながらも山荘に戻った頃には、いよいよ雨も本降りとなり始めていた。
「できることなら簡易シャワーでも設置したいところでしたが、水の量に限りがありますので見送っております。お召し物の替えはあらかじめ用意してありますので、中でお着替えになってください」
中から戻ってきた冥は、相変わらずコトリファーストである。彼女のおかげで、お世話係の仕事もかなり楽だ。本来ならば、そこまで一里之が手回しをしなければならないのかもしれないが、残念ながら気の利くタイプではないことくらい自覚している。素直に冥の手際の良さに甘えるばかりだ。
「こりゃ本格的に降ってきやがったな。崖崩れとか起きないだろうな」
軒下に入って煙草に火を点ける鯖洲。山荘の中に入ろうにも、おそらくコトリが着替えるからであろう。冥が玄関の前に立ちはだかる。しかたがなく、鯖洲にお供することにした。
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