ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース3 山奥の事故物件【出題編】

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 鯖洲には登山の経験でもあるのだろうか。思いのほか身軽な感じで登山を始めた鯖洲のペースを見て、なんとなくそんなことを思う一里之。

「どうした? 置いてくぞ」

 振り返った鯖洲に促されて、ようやく一歩目を踏み出した。リュックサックが重く背中にのしかかる。

 季節としては、もう夏になる。しかしながら、登山道は背の高い木々の葉に覆われて、予想していた以上に快適である。涼しいというか、むしろ寒いくらいなのかもしれない。それでも、鯖洲についていこうと足を踏み出すにつれて、疲労感が一里之を襲った。社会人になってから運動不足というのもある。しかし、何よりも鯖洲のペースが明らかに早いのだ。

「あの、ちょっと休憩しませんか?」

 登山道の脇に、ちょっとした屋根のある場所を見つける。ベンチが並んでおり、そこから街の景色が眺められるようだから、おそらくは展望台というやつなのであろう。まだまだ山の中腹にもいたっていないのだろうが、しかし自分で思っていたよりは登ったようだ。

「ったく、仕方がねぇなぁ。ちょうどいい。ヤニがきれそうだったんだ。ちょっと付き合ってやるよ」

 さすがの鯖洲も、山を登りながら煙草を吸うということはしなかった。展望台に灰皿が置いてあるわけではないのだが、それでも携帯灰皿を取り出す辺り、まだ常識的だといえよう。普段のかれが破天荒なゆえに、ちょっとした行動が常識的に見えてしまうから困る。

 リュックサックを降ろした一里之は、取り出しやすい位置に入れておいたペットボトルを取り出す。必ず飲料は必要になると思って大量に購入したスポーツドリンクだった。

「はい、どうぞ――」

 先に鯖洲に渡すと「おう」と受け取り、さっさと飲み干してしまう鯖洲。一里之も喫煙者ではあるが、鯖洲ほどニコチンには依存していない自信がある。

「こんなところで倒れたら大変ですから、煙草もほどほどにしておいたほうがいいですよ」

 そう言う一里之自身は、疲れのせいもあってか煙草を吸う気にはなれなかった。

「おう、そういえばよ、この山奥で起きた事件だけど、当時は一応ドクターヘリが飛んだらしいぜ」

 鯖洲から手渡された資料は、駐車場に到着し、鯖洲が煙草を吸いに出ている時にざっと読んだ。その時の情報では、被害者は脳天をかち割られて即死だったはず。ドクターヘリが飛んだところで助からないのは明白だ。それに――山荘の電話線は切断されており、そもそも外部に連絡できなかったと記載されていたはず。
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