ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
130 / 391
ケース3 山奥の事故物件【出題編】

8

しおりを挟む
【2】

「おいおい、こいつは思った以上に難儀なんじゃねぇか?」

 登山口近くの駐車場へと車を停めると、その雄大なる山々の高さに圧巻される。鯖洲はきっと、もっと低い山を想像していたのであろうが、しかし一筋縄ではいかないらしい。

「少しでも山を車で登れたら良かったのに――。本当に、こんなところで山荘なんてやってたんでしょうか?」

 山荘を経営するということは、食材などを定期的に調達する必要があるだろう。そのために、いちいち登山道を往復する必要がある。しかも、車は使えないし、見渡す限り頂上まで続くロープウェイがあるというわけでもなさそうだ。食材ひとつを調達するにも、とんでもない労力がかかってしまうわけだ。きっと、宿泊料金にその分も上乗せしているのであろうが、誰が好き好んで、山奥まで登って山荘に泊まろうとするのだろうか。

「まぁ、山奥の山荘だからこそいい――っていう、意識高い系の馬鹿がいるからだろうよ」

 とんでもない形で山荘の宿泊客を馬鹿にする鯖洲。それはもはや、鯖洲の偏見以外の何者でもないではないか。

「と、登山が趣味な人達の隠れ家みたいなものだったのかもしれませんね」

 棘のある鯖洲の言葉を少しばかり和らげてやると、一里之は改めて山を見上げて溜め息をひとつ。遠くに背景のひとつとして映っている時点で嫌な予感はしていたが、麓まできてみても、その壮大さが手に取るように分かる。きっと、富士山ほどの高さはないのであろうが、それでも素人が思いつきで登れるような山ではない気がする。

「どっちにせよ、分かってることはひとつ。俺達はそれなりの荷物と一緒に、この山を登らにゃならんってことだ。こいつはお嬢とギャラの上乗せ交渉だな」

 一里之は会社員として、会社から給料が支払われているが、鯖洲や冥はコトリに直接雇われているらしい。一体、どれくらいの報酬を得ているのだろうか。もし、自分との差が大きかったら嫌だから知りたくはないが、気になるのも事実だった。

「それじゃ、ぼちぼち行きますか――」

 必要になるであろう荷物は、購入したリュックサックの中に詰めてある。鯖洲と一里之がそれぞれに担いで、山の奥にあるという山荘を目指すわけだ。

「俺が先頭な」

 山登りに適しているかどうかは別にして、急場しのぎで調達した格好に着替えている鯖洲。どこから見ても登山客のように見えるはずだが、あまりにも鯖洲には似合っておらず、なんだか浮いているように見えてしまう。もちろん、本人には言わないが。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

白昼夢 - daydream -

紗倉亞空生
ミステリー
ふと目にした一件の新聞記事が、忘れていた遠い昔の記憶を呼び覚ました。 小学生時代の夏休みのある日、こっそり忍び込んだ誰もいないはずの校舎内で体験した恐怖。 はたしてあれは現実だったのだろうか? それとも、夏の強い陽射しが見せた幻だったのだろうか? 【主な登場人物】 私………………語り手 田母神洋輔……私の友人      ※ シンジ…………小学生時代の私 タカシ…………小学生時代の私の友人 マコト…………同上 菊池先生………小学校教師 タエ子さん……?

処理中です...