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ケース3 山奥の事故物件【出題編】
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「責任は俺が取ります」
岩尾に続いて、磯崎からの視線も優子に向けられる。責任もなにも、磯崎はアルバイトであるし、そこまでの責任を負う必要はない。万が一を想定して判断しなければならないのは優子だった。
どこか抜けているところはあるし、脱サラして、こんな山奥で山荘の経営を始めてしまった夫ではあるが、根っこの部分は真面目である。薪割り小屋の中で眠りこけているなんてことは誰だって違うと思うだろうし、サボっているとも思わないだろう。もしそうなら、これだけの騒ぎになる前に出てきている。
「作業場のほうに薪割り用の小型ハチェットがあったよね? それを取ってくるよ」
岩尾の言葉は、それすなわち扉を破壊するという意味を含んでいた。壊してしまった扉は、後で修復することができるだろう。しかし、もし夫の身に何かがあったら――倒れでもしていたら、後で取り返しがつかなくなる。
ハチェットを取りに向かった岩尾と入れ違いに、堀田と美亜が外に出てきた。
「――状況は?」
堀田が心配そうな表情で駆け寄ってくると、磯崎が優子の代わりに口を開く。美亜は迷惑だとばかりに気怠そうな表情を浮かべ、寒いのか両腕をさすっていた。
「中から閂がかけられていて開かないっすね。しかも、どれだけ声をかけても返事がありません。何かあってからでは遅いので、これから扉を壊します」
もう、優子が口を挟むところなんて、どこにもなかった。今さら、扉を壊すのはやめてくれなんて言い出しても、聞き耳なんて持ってもらえないだろう。それはもう、仕方のないことだった。
「もし、病気で倒れていたら大変だ。奥さん、万が一のために病院に連絡を入れておいたほうがいいかもしれない」
この辺りはスマホの電波が入らない。しかしながら、奇跡的に固定電話の線は引くことができた。ゆえに、山荘に備え付けてある固定電話ならば、外部と連絡を取り合うことが可能だ。
「ここまでとなると、ドクターヘリになるっすね」
磯崎の言う通り、こんな山奥となれば、緊急の移送手段はヘリコプターということになる。こんな立地であるがゆえに、こればかりは仕方がない。もっとも、下手な救急車よりも迅速に動いてくれるかもしれない。
「だったら、ヘリを誘導するために狼煙でも上げておくか。ここにこれだけ人がいても仕方がないし、ちょっと行ってくるよ」
岩尾に続いて、磯崎からの視線も優子に向けられる。責任もなにも、磯崎はアルバイトであるし、そこまでの責任を負う必要はない。万が一を想定して判断しなければならないのは優子だった。
どこか抜けているところはあるし、脱サラして、こんな山奥で山荘の経営を始めてしまった夫ではあるが、根っこの部分は真面目である。薪割り小屋の中で眠りこけているなんてことは誰だって違うと思うだろうし、サボっているとも思わないだろう。もしそうなら、これだけの騒ぎになる前に出てきている。
「作業場のほうに薪割り用の小型ハチェットがあったよね? それを取ってくるよ」
岩尾の言葉は、それすなわち扉を破壊するという意味を含んでいた。壊してしまった扉は、後で修復することができるだろう。しかし、もし夫の身に何かがあったら――倒れでもしていたら、後で取り返しがつかなくなる。
ハチェットを取りに向かった岩尾と入れ違いに、堀田と美亜が外に出てきた。
「――状況は?」
堀田が心配そうな表情で駆け寄ってくると、磯崎が優子の代わりに口を開く。美亜は迷惑だとばかりに気怠そうな表情を浮かべ、寒いのか両腕をさすっていた。
「中から閂がかけられていて開かないっすね。しかも、どれだけ声をかけても返事がありません。何かあってからでは遅いので、これから扉を壊します」
もう、優子が口を挟むところなんて、どこにもなかった。今さら、扉を壊すのはやめてくれなんて言い出しても、聞き耳なんて持ってもらえないだろう。それはもう、仕方のないことだった。
「もし、病気で倒れていたら大変だ。奥さん、万が一のために病院に連絡を入れておいたほうがいいかもしれない」
この辺りはスマホの電波が入らない。しかしながら、奇跡的に固定電話の線は引くことができた。ゆえに、山荘に備え付けてある固定電話ならば、外部と連絡を取り合うことが可能だ。
「ここまでとなると、ドクターヘリになるっすね」
磯崎の言う通り、こんな山奥となれば、緊急の移送手段はヘリコプターということになる。こんな立地であるがゆえに、こればかりは仕方がない。もっとも、下手な救急車よりも迅速に動いてくれるかもしれない。
「だったら、ヘリを誘導するために狼煙でも上げておくか。ここにこれだけ人がいても仕方がないし、ちょっと行ってくるよ」
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