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ケース3 山奥の事故物件【プロローグ】

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「だとしても断る。とにかく、さっさと来い。大体よ、物件とお嬢を繋ぐのはお前の仕事だろうが。どうして俺んところに連絡が来るかねぇ」

 コトリが住む予定というか、そのつもりで向かうことになる事故物件。その情報が直接的に一里之のところに来たことはいまだにない。鯖洲を経由するか、冥を経由しているのが大半である。

「まだ信用がないんじゃないですか? 着任して短いですし」

 一里之はそう答えると、仕方なく鯖洲の事務所に向かって歩き出した。お嬢様お世話係は人がころころと変わりすぎる。だからこそ、長いことコトリに付き合っている鯖洲や冥に連絡が行くのであろう。その辺りのプロセスがどうなっているのかは知らないが、例えば会社側に事故物件を斡旋する人間がいるのだとすれば、いつ辞めて逃げ出してしまうか分からない人間より、確実に連絡がつく人間のほうが連絡を入れやすい。つまり、お嬢様お世話係というポストに信頼がないのだ。

「それはあり得るか。ただよ、お前はこれまでのやつとは違って、逃げ出したりしないでお嬢に付き合ってるだろ? 大抵のやつは長時間拘束されたり、お嬢に振り回されたり、それ以外の仕事がまるでなかったり――とな、辞めていくんだよ。はっきり言って、もう歴代でもお前が長く続いているほうになると思うぜ」

 これまで名前すら聞いたことのなかったお嬢様お世話係ではあるが、一里之が思っていたよりも人の入れ替わりが激しいらしい。辞令をもらってまだ数ヶ月程度であるが、それでも長く続いているほうなんて妙な話だ。

 事務所が見えてくる。意図的に車道側へと進路を寄せた。

「それで、どこが駐車場なんですか?」

 鯖洲の事務所は通りに面しているが、記憶が正しければ駐車場らしき場所はなかったはずだ。どこかから車を回してきたような覚えがある。

「あぁ、事務所の脇にある小道を突っ切ると駐車場になってんだよ。裏手は入り組んだ路地になっていて説明が面倒だから、事務所脇の小道を通って来いよ」

 あぁ、結局事務所の近くは通らなければならないのか。溜め息をひとつ。そこに追い討ちをかけるかのごとく鯖洲が漏らす。

「ちなみに、その小道の脇にはよ、叔父貴が大切に育ててる朝顔があるから、それには絶対に触れんじゃねぇぞ。何かあったら小指一本じゃ済まねぇからな」

 なるほど、またしても難関が立ちはだかるわけか。多分、叔父貴というのは、その世界では偉い人のことを指すのだろう。鯖洲のニュアンスからして、そんな感じがする。
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