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ケース3 山奥の事故物件【プロローグ】
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コトリの姉。かつて事件に巻き込まれてしまった彼女の姿は、間違いなく今のコトリに少なからずとも影を落としていることだろう。もちろん、本人に聞いてみるような真似はできないし、冥に聞いても教えてもらえそうにはない。
支度を終えると家を出る。いい加減、バイクの一台でもあれば便利なのであろうが、駐車場のことなどを考えると、どうしても電車やバス頼りになってしまう。それで生活が成り立ってしまうから、多分車を持つことはおろか、バイクを買うこともないだろう。車がなければ生活できない田舎とは大違いだ。
バスを乗り継ぎ鯖洲の事務所へと向かう。ただ、彼の事務所を訪れるのはしばらくぶりであり、しばしスマホと睨めっこをする羽目になってしまった。たまたま乗ったバスが悪かったのか、どこかで乗り継ぎをしなければならないらしい。
ふと、会社までの定期を財布の中に見つけて溜め息を漏らす。これを購入した時、まさか全く別の部署に異動になるなんて思いも寄らなかった。交通費は会社から支給はされるものの、不定期であるため申請が必要であり、その手間もあってか、一里之は申請を怠っていた。損をするのは自分だし、特に会社から何かを言われるわけではないから問題ないだろう。
バスを乗り継ぎ、事務所のそばの停留所で降りた。こちらから事務所まで出向くつもりはない。出向いたらどんな目に遭うか分からないし、本音を言えば純粋に近づきたくない。
走り去るバスを見送りつつ、一里之はスマホを取り出した。もちろん、鯖洲を呼びつけるためだ。
「鯖洲さん、事務所近くの停留所に着きましたけど」
「はぁ? こっちは事務所の駐車場でずっと待ってんだよ。これ以上待たせるなら待機料金もらうぞ」
事務所に近づきたくないというのに、わざわざ事務所の駐車場で待ってくれているという鯖洲。その様子からして、わざわざこちらまで迎えに来てくれるつもりはないらしい。むろん、一里之は食らいつく。
「いや、鯖洲さんが迎えに来てくださいよ」
「断る。お前が来い。ってか、いつからお前は俺に指図できるようになったんだ?」
鯖洲という人物を掌握しつつあったからか、彼に対しては――義理と人情の世界にいる人間というフィルターを外すことができる。慣れというのは恐ろしいもので、鯖洲に凄まれても軽く流せるようにさえなっていた。
「指図じゃありませんよ。お願いです。お願い」
支度を終えると家を出る。いい加減、バイクの一台でもあれば便利なのであろうが、駐車場のことなどを考えると、どうしても電車やバス頼りになってしまう。それで生活が成り立ってしまうから、多分車を持つことはおろか、バイクを買うこともないだろう。車がなければ生活できない田舎とは大違いだ。
バスを乗り継ぎ鯖洲の事務所へと向かう。ただ、彼の事務所を訪れるのはしばらくぶりであり、しばしスマホと睨めっこをする羽目になってしまった。たまたま乗ったバスが悪かったのか、どこかで乗り継ぎをしなければならないらしい。
ふと、会社までの定期を財布の中に見つけて溜め息を漏らす。これを購入した時、まさか全く別の部署に異動になるなんて思いも寄らなかった。交通費は会社から支給はされるものの、不定期であるため申請が必要であり、その手間もあってか、一里之は申請を怠っていた。損をするのは自分だし、特に会社から何かを言われるわけではないから問題ないだろう。
バスを乗り継ぎ、事務所のそばの停留所で降りた。こちらから事務所まで出向くつもりはない。出向いたらどんな目に遭うか分からないし、本音を言えば純粋に近づきたくない。
走り去るバスを見送りつつ、一里之はスマホを取り出した。もちろん、鯖洲を呼びつけるためだ。
「鯖洲さん、事務所近くの停留所に着きましたけど」
「はぁ? こっちは事務所の駐車場でずっと待ってんだよ。これ以上待たせるなら待機料金もらうぞ」
事務所に近づきたくないというのに、わざわざ事務所の駐車場で待ってくれているという鯖洲。その様子からして、わざわざこちらまで迎えに来てくれるつもりはないらしい。むろん、一里之は食らいつく。
「いや、鯖洲さんが迎えに来てくださいよ」
「断る。お前が来い。ってか、いつからお前は俺に指図できるようになったんだ?」
鯖洲という人物を掌握しつつあったからか、彼に対しては――義理と人情の世界にいる人間というフィルターを外すことができる。慣れというのは恐ろしいもので、鯖洲に凄まれても軽く流せるようにさえなっていた。
「指図じゃありませんよ。お願いです。お願い」
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