ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース2 干しかんぴょう殺人事件【出題編】

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 そろそろ本格的に逃げ出したか――と冥が漏らし始めた時分になって、ようやく鯖洲が戻ってきた。思っていたよりも道が混んでいたらしい。

「全く、どうしてこうも道路ってのは狭いんだ? もう少し車線を増やしてもいいじゃねぇか」

 この辺りの車線は基本的に2車線だ。それでも少ないなんて贅沢である。なぜなら――。

「いや、俺の地元は基本的に1車線ですけど」

 鯖洲の愚痴に付き合う形で、ぽつりと地元の情報を漏らす一里之。地元は豪雪地帯かつ田舎であるため、2車線なんて必要ない。場所によっては、もう少し広くしてもいいのではないかと思う道路はあっても、基本的には1車線で事足りる。

「はぁ? 1車線しかなかったら渋滞し放題じゃねぇか」

 都会の考えからすれば、確かに1車線は少ないのかもしれない。けれども、それで充分なのだから仕方ない。

「そりゃ、通勤ラッシュや帰宅ラッシュの時には混みますけど、それ以外の時間なら渋滞とかしないですよ」

 冥がこしらえた居間のテーブルの上に、牛丼チェーン店の袋を置く鯖洲。

「お前の地元、過疎ってんなぁ――。1車線しかねぇとか想像できねぇわ」

 辺りには牛丼特有の良い匂いが漂う。袋がふたつある辺り、とりあえず人数分というわけではなく、手あたり次第に買ってきたというイメージが強い。

「ほら、こいつが領収書だ。金はまぁ――後でいい。今回がどれだけの長丁場になるか分からねぇからなぁ」

 領収書を差し出しつつ、さらりと恐ろしいことを口にする鯖洲。やはり、いざ住むとなったら長丁場になることがあるのだろう。とりあえず前回は日を跨がずに帰ることができたから問題なかったが、もし記念すべき1発目が何連泊もする仕事だとしたら、そりゃ誰だって逃げ出したくなるだろう。ここにいる以上、ある程度の覚悟は必要だ。

「それでは、食事といたしましょうか」

 冥はテーブルに着席すると、袋の中からテイクアウトした牛丼を取り出す。

「お嬢様のは――こちらですね?」

 おそらく、つゆだくで注文したのはそれだけだったのであろう。冥がテーブルの上に置いた牛丼は、ご飯の辺りまでなみなみとつゆが入っている。ここまでくると、味噌汁をご飯にかけたものと何か通ずるものがある。明らかにやり過ぎな感じだ。

「まぁ、つゆだくですわぁ。もはや、ご飯が見えないのではなくてぇ?」

 覗き込んで喜んでいる様子のコトリ。普段から美味しいものばかり食べている彼女にとっては、逆にこのような庶民の味こそが、ご馳走なのかもしれない。
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