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ケース2 干しかんぴょう殺人事件【出題編】
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「噂をすればなんとやら――か。玄界灘、今回は最後まで付き合ってもらえるんだろうな?」
玄関の外からは、聞こえるか聞こえないか程度の静かなエンジン音。なんとなくであるが、こちらのほうに向かって近づいてくるような気がする。
「えぇ、明日までに全てが片付けば――の話になりますが。おそらく、問題はないかと」
玄関から見える外の景色に、黒光りするものが映り込んだ。まるで鏡であるかのごとく周囲の景色を映し出すそれは、さぞ丁寧に洗車をされているのだろう。
「――だとよ。今夜は寂しくならなくて良いなぁ」
前回、お嬢様とたった2人になってしまい、随分と寂しい面子になってしまったのは、どこかの誰かさんが全てを一里之に押しつけて帰ってしまったからではないのか。喉まで出かけた言葉を、辛うじて飲み込んだ。
「さぁ、お嬢のおでましだな」
ただでさえ静かなエンジン音が止まり、ドアを開ける音が響いた。そして玄関先に現れたのは、この前よりも煌びやかな格好をしたコトリだった。わざわざ外出ひとつするにも、職人が手間をかけてこしらえたようなドレスを着る辺り、改めて御令嬢なのだなと思う。もっとも、運転手つきでここまでやってくる時点でそうなのであるが。
「みなさん、ごきげんよう」
寺山にエスコートされる形で玄関へと入ってきたコトリは、スカートの裾を持ち上げるという、いつもの挨拶をする。律儀にも同様の動作で挨拶を返した冥には、もはやプロ意識のようなものさえ感じた。
「よぉ」
コトリに合わせた挨拶をした冥とは別に、軽く片手を上げて返事をするだけに留めた鯖洲。ここは、ズボンの裾でも軽くあげて挨拶を返すべきか。ちょっと迷ってしまったが、軽く会釈をするに一里之は留めた。
「お嬢様、それではこれにて失礼いたします。また、お帰りの際、お迎えにあがりますので」
絶妙な間を読み、自分は綺麗にフェイドアウトしてしまう寺山。コトリの「えぇ、ご苦労様」という言葉を聞き、こちらに向かって一礼をすると、外へと出て行ってしまった。直接話をしたことはないのだが、できる男といった印象が強い。なぜゆえに、彼をこのチームに入れず、鯖洲を引き入れたのだろうか。寺山のほうがよっぽど執事をやっているように見えるのであるが。
「さて、それでは早速ですけど、こちらの物件のお話を聞かせていただきたいですわ」
寺山が運転する車が見えなくなると、コトリは辺りを見回して目を輝かせる。
玄関の外からは、聞こえるか聞こえないか程度の静かなエンジン音。なんとなくであるが、こちらのほうに向かって近づいてくるような気がする。
「えぇ、明日までに全てが片付けば――の話になりますが。おそらく、問題はないかと」
玄関から見える外の景色に、黒光りするものが映り込んだ。まるで鏡であるかのごとく周囲の景色を映し出すそれは、さぞ丁寧に洗車をされているのだろう。
「――だとよ。今夜は寂しくならなくて良いなぁ」
前回、お嬢様とたった2人になってしまい、随分と寂しい面子になってしまったのは、どこかの誰かさんが全てを一里之に押しつけて帰ってしまったからではないのか。喉まで出かけた言葉を、辛うじて飲み込んだ。
「さぁ、お嬢のおでましだな」
ただでさえ静かなエンジン音が止まり、ドアを開ける音が響いた。そして玄関先に現れたのは、この前よりも煌びやかな格好をしたコトリだった。わざわざ外出ひとつするにも、職人が手間をかけてこしらえたようなドレスを着る辺り、改めて御令嬢なのだなと思う。もっとも、運転手つきでここまでやってくる時点でそうなのであるが。
「みなさん、ごきげんよう」
寺山にエスコートされる形で玄関へと入ってきたコトリは、スカートの裾を持ち上げるという、いつもの挨拶をする。律儀にも同様の動作で挨拶を返した冥には、もはやプロ意識のようなものさえ感じた。
「よぉ」
コトリに合わせた挨拶をした冥とは別に、軽く片手を上げて返事をするだけに留めた鯖洲。ここは、ズボンの裾でも軽くあげて挨拶を返すべきか。ちょっと迷ってしまったが、軽く会釈をするに一里之は留めた。
「お嬢様、それではこれにて失礼いたします。また、お帰りの際、お迎えにあがりますので」
絶妙な間を読み、自分は綺麗にフェイドアウトしてしまう寺山。コトリの「えぇ、ご苦労様」という言葉を聞き、こちらに向かって一礼をすると、外へと出て行ってしまった。直接話をしたことはないのだが、できる男といった印象が強い。なぜゆえに、彼をこのチームに入れず、鯖洲を引き入れたのだろうか。寺山のほうがよっぽど執事をやっているように見えるのであるが。
「さて、それでは早速ですけど、こちらの物件のお話を聞かせていただきたいですわ」
寺山が運転する車が見えなくなると、コトリは辺りを見回して目を輝かせる。
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