ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース2 干しかんぴょう殺人事件【出題編】

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 冥が疑問を抱いている部分は、どうやらかんぴょうの部分ではないらしい。今回の一件において、明らかに悪目立ちしているのが、かんぴょうだが、そのインパクトゆえに、他のものが見えなくなっているのかもしれない。

「まぁ、あえてこの場では言わないでおきましょうか。あなたがうっかりと喋ってしまって、お嬢様の興をそいでしまうおそれもあるわけですし」

 冥はあえて教えてくれなかった。現場における、彼女が抱いた疑問点というものをだ。彼女との会話がなくなってしまったから、一里之は仕方がなく資料へと目を落とす。それと同時に軽い違和感。目眩のようなものに見舞われた。いよいよ、車に酔い始めたらしい。資料を裏返すと、そのまま窓のほうへと顔を向け、外の景色を眺める。

「――どうされました?」

「あの、俺……車酔いするんです。特に、車の中で文字を読むなんて真似をした時には」

 冥としては、現場に到着するまでに資料へと目を通しておいて欲しいのであろう。小さく溜め息を漏らすと「仕方がありませんね」と呟き、こう続けた。

「現場に到着しても、しばらくは時間があると思われますので、その時にでも一通り頭に叩き込んでおいてください」

 車酔いしても構わないから、とりあえず内容を頭に叩き込め――という言葉が飛んできたらどうしようかと思っていたが、しかし案外優しい言葉をかけてもらえた。

「あ、ありがとうございます」

 考えないようにすればするほど、気持ちが悪いような気がしてくる。これはもう、完全に車酔いだ。言葉を発することさえ厳しく、もはや目を瞑って耐えるしかない。

 小さい頃から、車というものは苦手だ。不思議なもので、自分が運転している時は車酔いなんてしないのに、人の運転だと簡単に車酔いしてしまう。別に運転が荒いとか、そんな要因は一切なく、動く車にハンドルを握らない状態で乗っていると、かなりの確率で車酔いしてしまう体質。こればかりは仕方がないと一里之は諦めていた。鯖洲の車に乗った時も、基本的に運転手だったから無事で済んだのであろう。

 駅を出て、市街地を少し走ると、見慣れた景色の住宅街に入る。歩いて駅まで向かえるのだから、袴田邸はそこまで遠くない。けれども、車に乗ってルートを辿ってみると、思っていたよりも遠い印象を受けた。よくもまぁ、なんの疑問も持たずに歩いたものだ。

 見慣れた景色の住宅街を抜けた、少し小高い丘の上に袴田邸はあった。住宅街にありながらも、ぽつんと一軒だけ頭ひとつ抜けたような位置にある。
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