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ケース2 干しかんぴょう殺人事件【プロローグ】
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鯖洲も変わり者であるが、冥もまた、紛れもなく変わり者であると言えよう。ただ、なんとなく彼女のほうがしっかりしていそうな気がしてしまうのはなぜだろうか。
一里之が資料を片手に電話番号を伝えると、それを3度に渡って復唱する冥。それだけで記憶できたのか「それでは、ある程度話が進みましたら、またお電話します」とだけ言うと、冥はさっさと電話を切ってしまった。
時刻はすでに夕方。今から先方さんのところを訪ねること自体、アポイントメントでもとっていなければ失礼な時間帯になる。しかしながら、冥の様子から察するに、今から売主である袴田のところを訪ねようという魂胆らしい。
とりあえず袴田の機嫌さえ損ねなければ、彼女に任せても問題はないだろう。男というのは単純な生き物であり、少しばかり非常識な時間帯であっても、冥のような美人が訪ねてきて嫌な気はしないだろう。
肩の荷が降りたかのように、コンビニへと寄った一里之。今日は奮発して発泡酒ではないほうの、喉越しさわやか飲料を購入。風呂上がりのこれが至福だと思える程度には、一里之も年をとってしまったということなのであろう。
久方ぶりの外出及び仕事。お嬢様お世話係になって以来、しばらくぶりの仕事らしい仕事に、一里之は妙な充足感を得ていた。確かに不規則であるし、拘束されてしまう時はとことん拘束されてしまうのであろうが、なかなかに悪くはない。自分で仕事をコントロールさえしてしまえば、お嬢様お世話係も楽勝だ。どこぞのエリート野郎からの情報のせいで、どうにもマイナスのイメージが強かったのであるが――慣れてしまえばどうということはないのかも。
家に帰ると無人の玄関が一里之を出迎えた。電気を点け、暗くなりつつあった部屋に活力を与える。下駄箱の上に放り投げた資料を手に取ると、靴を脱ぎつつ呟いた。
「そう言えば、あいつも事件があった日中に、袴田さんの家を訪れているんだよなぁ」
事件のあった日の日中に袴田家を訪れていた自分は3人。どのような理由で訪れたのかは分からないが、実はこの3人のうち1人は知り合い――いいや、同僚だった。あのエリートぶった意識高い系の野郎――大東だった。
「もしかすると、事件が起きる前から、袴田さんは家を売るつもりだったのかもな」
ぽつりと独り言を漏らすとシャワーを浴びに風呂場へと向かう。
干しかんぴょう事件は、そのふざけたネーミングとは裏腹に、少しずつではあったが、一里之の背後に忍び寄りつつあった。
もちろん、この時の一里之には、それを知る由はない。
一里之が資料を片手に電話番号を伝えると、それを3度に渡って復唱する冥。それだけで記憶できたのか「それでは、ある程度話が進みましたら、またお電話します」とだけ言うと、冥はさっさと電話を切ってしまった。
時刻はすでに夕方。今から先方さんのところを訪ねること自体、アポイントメントでもとっていなければ失礼な時間帯になる。しかしながら、冥の様子から察するに、今から売主である袴田のところを訪ねようという魂胆らしい。
とりあえず袴田の機嫌さえ損ねなければ、彼女に任せても問題はないだろう。男というのは単純な生き物であり、少しばかり非常識な時間帯であっても、冥のような美人が訪ねてきて嫌な気はしないだろう。
肩の荷が降りたかのように、コンビニへと寄った一里之。今日は奮発して発泡酒ではないほうの、喉越しさわやか飲料を購入。風呂上がりのこれが至福だと思える程度には、一里之も年をとってしまったということなのであろう。
久方ぶりの外出及び仕事。お嬢様お世話係になって以来、しばらくぶりの仕事らしい仕事に、一里之は妙な充足感を得ていた。確かに不規則であるし、拘束されてしまう時はとことん拘束されてしまうのであろうが、なかなかに悪くはない。自分で仕事をコントロールさえしてしまえば、お嬢様お世話係も楽勝だ。どこぞのエリート野郎からの情報のせいで、どうにもマイナスのイメージが強かったのであるが――慣れてしまえばどうということはないのかも。
家に帰ると無人の玄関が一里之を出迎えた。電気を点け、暗くなりつつあった部屋に活力を与える。下駄箱の上に放り投げた資料を手に取ると、靴を脱ぎつつ呟いた。
「そう言えば、あいつも事件があった日中に、袴田さんの家を訪れているんだよなぁ」
事件のあった日の日中に袴田家を訪れていた自分は3人。どのような理由で訪れたのかは分からないが、実はこの3人のうち1人は知り合い――いいや、同僚だった。あのエリートぶった意識高い系の野郎――大東だった。
「もしかすると、事件が起きる前から、袴田さんは家を売るつもりだったのかもな」
ぽつりと独り言を漏らすとシャワーを浴びに風呂場へと向かう。
干しかんぴょう事件は、そのふざけたネーミングとは裏腹に、少しずつではあったが、一里之の背後に忍び寄りつつあった。
もちろん、この時の一里之には、それを知る由はない。
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