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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【エピローグ】

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 一里之は詫びを入れ、相手の男性――袴田とのやり取りを続けた。どのタイミングで内覧の話を持ち出してやろうか様子を伺っていたが、あちらも早々と家を売ってしまいたいのか、こちらから切り出す前に話を振ってきた。

「それで、家の査定についてなんですが――」

 袴田の言葉に相槌を打ちつつ、内覧という名の査定の話へと移る。この場合、売りたい側と買いたい側の仲介を行うのが普通だ。しかし、メールの内容からして妙だとは思っていたが、やはり今回の取り引きは特殊のようだ。

 一度、窓辺野不動産が物件を買取り、それを売りに出す――実にリスクが高く、下手をすれば不良物件を抱えてしまうかもしれないやり方だ。けれども一里之はそのビジネスモデルに納得できるだけの知識を持っていた。つまり、今回の物件は――コトリのために会社が買い取ってしまうということだ。実にシンプルな理由である。

 袴田との交渉というか、内覧の段取りはトントン拍子に進んだ。ただ、買取りの査定となると、これまた一里之とは畑違いの仕事のような気がした。とりあえず一度内覧させてもらって、後で改めて会社の人間を寄越すという形で納得してもらった。

「――あぁ、面倒くせぇなぁ」

 電話を切ると、うっかり本音が出てしまった。元より仕事が好きか――と問われたら、きっと喜んでイエスとは答えられない一里之。お嬢様お世話係という、ある意味で楽ができてしまう部署に異動になってしまったからこそ、しっかり自分を律しなければならない。首を横に振ると、会社に電話をする。どこに電話をすればいいのか迷ったが、とりあえず本社に直接かけてやった。天下のお嬢様お世話係からの電話だ。無下にはされないだろう。

 お嬢様の後ろ盾のおかげか、実にスムーズに話が通った。先方の希望を伝え、査定の段取りを組む。指定した日に来てくれるとのことで、これで本日のお仕事は終わりだ。改めて寝てやろうかと迷ったが、内覧の約束のためにも体内時計をあまり狂わせたくない。

 一里之は窓際に歩み寄ると、一思いにカーテンを引く。外は快晴であり、これでもかとばかりに日差しが差し込んできた。実にすがすがしい気分になりはするが、しかし家から出るつもりはない。冷蔵庫の中に食料はまだ充分にあったはずだから、今日は部屋でゴロゴロと過ごさせてもらおう。また、じきにお嬢様から振り回されることになるのだろうから。

 この時の一里之の予想は見事に的中することになる。そう、残念なことに。

【ケース1 完】
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