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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【エピローグ】
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とりあえず内覧の約束だけでも取り付けておいたほうがいい。何度もそう思い立っては、微睡の中へと戻っていた日々を脱却し、一里之はようやく仕事に着手しようと決心した。きっと、これまでお世話係を辞めていった人間は、どちらかというと日常的な虚無感と怠惰に負けて辞めてしまったのだろう。
それと同じになってはならない。お世話係になった途端、嫌で逃げ出したように思われたら堪ったものではないから。
メールを確認すると、記載されていた連絡先をタップ。この動作だけで電話をかけることができてしまうのだから、世の中便利になったものだと思う。
内覧のメールによると、物件は郊外の一軒家。決して市街までのアクセスも悪くはなく、条件としてはかなり良いほうになるだろう。どうやら老夫婦で住んでいたらしいが、最近になって妻のほうが死別してしまい、残された夫のほうは施設に入ることにしたらしい。今後施設で暮らすとなれば、それなりに用入りとなる。そこで、売り物件として家を出したようだった。
「はい――」
数コールしたのちに、しゃがれた男の声が受話器から漏れた。あまりにも覇気がなく、なんだか不気味でもある。
「あの、わたくし窓辺野不動産の一里之と申しますが――」
売主の名前は袴田透。定年までごくごく普通の商社に勤め、妻と2人で暮らしていた。子どもが3人いるが、全員が自立しており、一緒には暮らしていない。会社からのメールには、その程度の簡潔なことしか書かれていないため、失礼のないように探り探り話を展開させようと思っていたのだが、早速ハードルがたちはだかる。
「はい? すいません、耳が遠いもので」
どうやら、相手は耳が悪いらしい。老いからくるものなのであろう。しかし、ここで声を張り上げるなんて真似はしない。聞き取りやすいように声のスピードを落とし、また滑舌を意識する。
「窓辺野不動産の担当の者です」
一里之……などという珍しい名前が、もしかすると相手を混乱させているのかもしれない。その考えが正しかったかどうかは別にして、どうやら話は二度目にして伝わってくれたようだ。
「あぁ、連絡を待っておったんです。しばらく連絡がなかったから、てっきり忘れ去られているかと」
会社からメールが来て、迅速に動かなかったのは申し訳ないが、そこまで待たせた記憶はなかった。いや、中々手をつけようとしなかった自分に落ち度があると思ったほうがいい。
「大変お待たせして申し訳ありませんでした」
それと同じになってはならない。お世話係になった途端、嫌で逃げ出したように思われたら堪ったものではないから。
メールを確認すると、記載されていた連絡先をタップ。この動作だけで電話をかけることができてしまうのだから、世の中便利になったものだと思う。
内覧のメールによると、物件は郊外の一軒家。決して市街までのアクセスも悪くはなく、条件としてはかなり良いほうになるだろう。どうやら老夫婦で住んでいたらしいが、最近になって妻のほうが死別してしまい、残された夫のほうは施設に入ることにしたらしい。今後施設で暮らすとなれば、それなりに用入りとなる。そこで、売り物件として家を出したようだった。
「はい――」
数コールしたのちに、しゃがれた男の声が受話器から漏れた。あまりにも覇気がなく、なんだか不気味でもある。
「あの、わたくし窓辺野不動産の一里之と申しますが――」
売主の名前は袴田透。定年までごくごく普通の商社に勤め、妻と2人で暮らしていた。子どもが3人いるが、全員が自立しており、一緒には暮らしていない。会社からのメールには、その程度の簡潔なことしか書かれていないため、失礼のないように探り探り話を展開させようと思っていたのだが、早速ハードルがたちはだかる。
「はい? すいません、耳が遠いもので」
どうやら、相手は耳が悪いらしい。老いからくるものなのであろう。しかし、ここで声を張り上げるなんて真似はしない。聞き取りやすいように声のスピードを落とし、また滑舌を意識する。
「窓辺野不動産の担当の者です」
一里之……などという珍しい名前が、もしかすると相手を混乱させているのかもしれない。その考えが正しかったかどうかは別にして、どうやら話は二度目にして伝わってくれたようだ。
「あぁ、連絡を待っておったんです。しばらく連絡がなかったから、てっきり忘れ去られているかと」
会社からメールが来て、迅速に動かなかったのは申し訳ないが、そこまで待たせた記憶はなかった。いや、中々手をつけようとしなかった自分に落ち度があると思ったほうがいい。
「大変お待たせして申し訳ありませんでした」
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