ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【エピローグ】

ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【エピローグ】1

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【1】

 やはりおかしい。どう考えたって普通ではないだろう。独り暮らしの部屋。ベッドから起き上がると、目をこすると小さく溜め息を漏らした。

 辞令が降りてすぐに現場へと向かわされたから気づかなかったことが数点ある。まず、第一に人事部に自分の机なんてないということだ。あの事故物件の夜から一夜明けた翌日。なんとか軽トラックを営業時間内に返し、仕方がなくタクシーで帰宅せざるを得なくなったせいで、満身創痍のままの出社となってしまった。

 人事部に顔を出すが、しかし自分の机なんて用意されていない。そこで一里之は初めて知らされる。基本的にお嬢様お世話係は自宅待機の勤務であるということを。最近の流行りに乗ってのリモートワークというわけではない。連絡があるまで自宅で待機である。その代わり、お嬢様のお世話が必要になった場合は、先日のように拘束時間を越えて仕事をしなければならなくなるらしい。

 基本的に一里之がしなければならない仕事は、大きく分けてふたつだけ。ひとつはお嬢様のお世話係。もうひとつは、これもお世話係として当たり前の仕事になるのだろうが、営業の連中から回されてきた事故物件の内覧というものがある。そして、明らかにおかしいのはここからであり、その物件が事故物件となったバックグラウンドを調べなければならないらしい。調べられる範囲で構わないというのだが、これが割りかし骨の折れる仕事のようだ。

 事故物件の管理と、お嬢様の管理。それさえできていれば、基本的に自宅での待機。楽そうに見える仕事ではあるが、やるべきことは多い。

 何よりも、いわゆる外部からの派遣のような形で働いている鯖洲と冥が、中々に非協力的である。会社に自分の机がなく、追い返されてしまった際、帰り道で鯖洲に連絡をしてみたが、帰ってきた言葉は「そんなことでいちいち連絡してくるな」というものだった。本職が忙しかったのかもしれないが、もう少し新人に優しくしてくれもいいのではないだろうか。冥にも恐る恐ると電話を入れてみたが、しかし鯖洲が言っていた通り電話には出ず。明らかに仕事ではないだろう時間帯に連絡を入れてみても、繋がらなかった。かと言ってあちらからかけ直してくることもない。

 右も左も分からず、ただコトリに振り回されるだけ。周囲も協力的ではないし、逃げ出したくなっても不思議ではない。もちろん、こんな中途半端な状態で放り出すつもりはないが。
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