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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】

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 それは閃きに近い違和感だった。そして、その閃きはある可能性へとベクトルを向けた。思わずその場でファイルをめくり、そしてホテルの屋上を見上げる。そもそも屋上に出ることができる仕様ではないのだろう。手すりはおろか柵さえ設置されていない――そこには当時、多くの雪が積もっていたはず。

 正直なところ、一里之が名探偵ほどの頭脳を持っていれば、この時点で真相に近づけていたのだろう。けれども、あくまでも一里之は平々凡々な会社員。その閃きは違和感程度に終わってしまう。

 ただ、その違和感はわだかまりとなって一里之の中に広がっていった。その気味の悪い感覚に、一里之は身震いをすると、荷物をと共にホテルの中へと戻ることにした。電気が来ていれば、電動のシャッターを開けて中に荷物を搬入することができただろう。そう――この、シャッターの存在こそが、一里之の抱いた違和感だった。

 とりあえず手始めに大物――マットレスを運び込むことにした。マットレスを持って横歩きで階段をのぼる。精算機で料金が精算されると、その情報が管理小屋へと飛び、掃除や片付けのために人が入る。ここまではいいだろう。ここまではおそらく問題はない。しかし、問題なのは――どうして、アルバイトの男性は鍵を落としてしまったかだ。普通に考えれば、鍵を落とすようなことにはならなかったはずなのに。

 部屋に戻ると、コトリが窓際に立っていた。何をするでもなく、ぼんやりと外を眺めている。いや、うっとり――と例えるべきか。どこから見つけてきたのか、窓際には赤い蝋燭が立てられており、そのぼんやりとした明かりが妙に不気味だった。ホテルに置いてあったことから察するに――用途はあえて言うまい。

「お待たせしました」

 努めて明るい声を出しながらマットレスを持ち込む。マットレスを包んでいたビニールを剥がして、それを回転するというベッドの上へと敷いた。

「あ、後――寝袋も一応買ってきたんで」

 一里之が言うと、コトリは力無い笑みを浮かべて首を横に振った。

「ありがとう一里之君。でも残念ですわ。どうやらわたくし、ここには住めないみたいですもの」

 喉から飛び出しそうになった「はぁ?」という短いワードを必死に堪える。ならば、これまでの苦労は一体なんだったのか。振り回され損だ。そんなことを考える一里之を尻目にコトリはこう呟いたのだった。

「だって分かってしまったもの。この物件で何が起きたのか――。なぜに事故物件になってしまったのかが」
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