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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】
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ナビに従ってホテルに戻るまでの間、一里之はこれまで考えなくて良かったはずのことを考え始めていた。コトリが泊まると断言しているのは事故物件――すなわち、かつて人が死んだ場所である。しかも、よくよく事件のことを掘り返してみたら、どうにも不審な点が多い。もし、あの事故物件で起きたことが自殺ではなく他殺だったとしたら、首を吊った女性はさぞ浮かばれないことであろう。
化けて出るかも。その短絡的な発想に、一里之は小さく鼻で笑う。今さら何をびびっているのか。そもそも、幽霊なんて存在は実在しないに決まっている。
「――いるよ」
スマートフォンから、無機質ではなく、やや感情の落ち込んだ女性の声が漏れ出した。画面はナビ画面のまま。ここまでは、時折思い出したかのように道案内をするばかりだったのに、今のは明らかに一里之の思考にシンクロした返事だったように思える。
「まさか……な」
慣れない環境で、いまだにそれに引っ張り回されている状況。疲れのせいで聞き間違いでもしたのであろう。スマートフォンを助手席へと放り投げると、改めて運転に集中することにした。けれども、辺りの明かりが少なくなり、峠に入った頃になって、一里之は急に気が重くなった。また、あの場所に戻らねばならないなんて。
一里之は特に幽霊を信じたりはしていない。怖い話だとか、そういったものをエンターテイメントとして捉えることはあっても、限りなくフィクションの世界に近いものであると思っていた。もちろん霊感なんてものはない。それなのに、本能的かつ直感的に、あのホテルに戻るのを嫌がっている。
気がつくともうホテルの前までやって来ていた。さっきは敷地の中まで車を乗り入れはしなかったが、それは変に鯖洲の車が低かったからだ。荷物を運び入れなければならないし、軽トラックという小回りのきく車ということもあり、遠慮なく【は棟】の出入り口前に横付けをした。
車を降りて見上げてみる。――事件が発覚した当時、この目の前に見えている出入り口には鍵がかかっていた。そして鍵は中の階段の中腹に落ちていた。シャッターは開いておらず、それゆえに密室だった。
「あ……れ? なんかおかしくねぇ?」
そこまで考えて、一里之は変な違和感を覚えた。この情報――なんだか矛盾していないだろうか。
「アルバイトのおっさんは、前の利用者が部屋を出たから掃除に向かったんだよなぁ――だとしたら、やっぱりおかしい」
化けて出るかも。その短絡的な発想に、一里之は小さく鼻で笑う。今さら何をびびっているのか。そもそも、幽霊なんて存在は実在しないに決まっている。
「――いるよ」
スマートフォンから、無機質ではなく、やや感情の落ち込んだ女性の声が漏れ出した。画面はナビ画面のまま。ここまでは、時折思い出したかのように道案内をするばかりだったのに、今のは明らかに一里之の思考にシンクロした返事だったように思える。
「まさか……な」
慣れない環境で、いまだにそれに引っ張り回されている状況。疲れのせいで聞き間違いでもしたのであろう。スマートフォンを助手席へと放り投げると、改めて運転に集中することにした。けれども、辺りの明かりが少なくなり、峠に入った頃になって、一里之は急に気が重くなった。また、あの場所に戻らねばならないなんて。
一里之は特に幽霊を信じたりはしていない。怖い話だとか、そういったものをエンターテイメントとして捉えることはあっても、限りなくフィクションの世界に近いものであると思っていた。もちろん霊感なんてものはない。それなのに、本能的かつ直感的に、あのホテルに戻るのを嫌がっている。
気がつくともうホテルの前までやって来ていた。さっきは敷地の中まで車を乗り入れはしなかったが、それは変に鯖洲の車が低かったからだ。荷物を運び入れなければならないし、軽トラックという小回りのきく車ということもあり、遠慮なく【は棟】の出入り口前に横付けをした。
車を降りて見上げてみる。――事件が発覚した当時、この目の前に見えている出入り口には鍵がかかっていた。そして鍵は中の階段の中腹に落ちていた。シャッターは開いておらず、それゆえに密室だった。
「あ……れ? なんかおかしくねぇ?」
そこまで考えて、一里之は変な違和感を覚えた。この情報――なんだか矛盾していないだろうか。
「アルバイトのおっさんは、前の利用者が部屋を出たから掃除に向かったんだよなぁ――だとしたら、やっぱりおかしい」
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