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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】
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「完全に決まりやがったな。こりゃ、今夜は帰れねぇな。どうせ、ここに泊まるとか言い出す――」
「セバスチャン、今から家に従事するメイド達をここに集めなさい。ベッドメイキングが上手い者がいいわ。それと、腕の良いシェフを呼んで、ワインに合う料理を作らせなさい。ここに住みますわ!」
鯖洲が案の定と言わんばかりに溜め息を漏らす。どうやら、ついさっき彼が漏らした言葉が、そのまま現実のものとなりつつあるらしい。泊まる……ではなく、住むと宣言しているが。
「お嬢、少し前までは通用したかもしれないが、今は働き方改革とやらがうるさくてな。今からベッドメイキングをしてくれるメイドは呼べねぇなぁ。それに、今日は気分が乗らないみたいだったしよ。シェフも以下同文。ここに泊まりたいなら、少しは自分の身の回りのものを自分で揃えてみろ」
発想と発言が、いかにも箱入りのお嬢様である。メイドとは――あのメイドカフェで出会った面裏のある……いや、オンとオフの差が激しい彼女のことなのだろうか。シェフらしき人物は紹介されていないところから察するに、とりあえずコトリは生活に必要な人材をかき集めたいだけなのであろう。一里之もそのうちの1人ということか。
「一里之君、申し訳ないけど、ここに住むために必要なものを買い出してきてくれないかしら? 窓辺野の名前を出せば、ある程度の場所であれば買い物ができるはず」
近所の商店街ならまだしも、窓辺野の名前を出すだけで買い物ができる店なんて限られてくるだろう。最悪、調達する際は自腹を切って、後で請求という形でいけないだろうか。いや、そもそも会社の辞令でお世話係になったのだから、経費で落とせそうな気がしないでもない。というか、本気でこれから調達して来いというのか。世間知らずのお嬢様は中々にわがままだ。
「俺も手伝おう。お嬢、色々と用入りかもしれんから、少し時間がかかるかもしれない。それだけは心得ておいてくれ」
妙に協力的な鯖洲を見て、一里之は直感的に気づいた。おそらく鯖洲はどさくさに紛れて帰るつもりのようだ。間違いない。そうに決まっている。
予感の的中を察したのは、率先して鯖洲が運転席に乗ったのを見た瞬間だった。とりあえず助手席に乗ってみると、鯖洲はエンジンをかけつつ当たり前のように酷い言葉を続けた。
「小僧、近くのホームセンター的なところまで送ってやるから、その後は自分でなんとかしろ。あれだ。ホームセンターだったら、商品を運ぶための軽トラくらい貸してくれるかもしれねぇから」
「セバスチャン、今から家に従事するメイド達をここに集めなさい。ベッドメイキングが上手い者がいいわ。それと、腕の良いシェフを呼んで、ワインに合う料理を作らせなさい。ここに住みますわ!」
鯖洲が案の定と言わんばかりに溜め息を漏らす。どうやら、ついさっき彼が漏らした言葉が、そのまま現実のものとなりつつあるらしい。泊まる……ではなく、住むと宣言しているが。
「お嬢、少し前までは通用したかもしれないが、今は働き方改革とやらがうるさくてな。今からベッドメイキングをしてくれるメイドは呼べねぇなぁ。それに、今日は気分が乗らないみたいだったしよ。シェフも以下同文。ここに泊まりたいなら、少しは自分の身の回りのものを自分で揃えてみろ」
発想と発言が、いかにも箱入りのお嬢様である。メイドとは――あのメイドカフェで出会った面裏のある……いや、オンとオフの差が激しい彼女のことなのだろうか。シェフらしき人物は紹介されていないところから察するに、とりあえずコトリは生活に必要な人材をかき集めたいだけなのであろう。一里之もそのうちの1人ということか。
「一里之君、申し訳ないけど、ここに住むために必要なものを買い出してきてくれないかしら? 窓辺野の名前を出せば、ある程度の場所であれば買い物ができるはず」
近所の商店街ならまだしも、窓辺野の名前を出すだけで買い物ができる店なんて限られてくるだろう。最悪、調達する際は自腹を切って、後で請求という形でいけないだろうか。いや、そもそも会社の辞令でお世話係になったのだから、経費で落とせそうな気がしないでもない。というか、本気でこれから調達して来いというのか。世間知らずのお嬢様は中々にわがままだ。
「俺も手伝おう。お嬢、色々と用入りかもしれんから、少し時間がかかるかもしれない。それだけは心得ておいてくれ」
妙に協力的な鯖洲を見て、一里之は直感的に気づいた。おそらく鯖洲はどさくさに紛れて帰るつもりのようだ。間違いない。そうに決まっている。
予感の的中を察したのは、率先して鯖洲が運転席に乗ったのを見た瞬間だった。とりあえず助手席に乗ってみると、鯖洲はエンジンをかけつつ当たり前のように酷い言葉を続けた。
「小僧、近くのホームセンター的なところまで送ってやるから、その後は自分でなんとかしろ。あれだ。ホームセンターだったら、商品を運ぶための軽トラくらい貸してくれるかもしれねぇから」
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