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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】

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「おい、ちょっと待て。どうして管理小屋で管理されているはずの鍵が、密室になったホテルの階段に落ちてるんだ?」

 コトリよりも先に疑問の声を上げたのは鯖洲だった。この事件――いいや、この物件、不審な点が多すぎる。どうして管理小屋にあったはずの鍵が、そんなところにあったのか。痒いところに手が届く仕様となっているファイルは、一里之が抱いた疑問にも答えてくれた。

「どうやら、アルバイトの男性が部屋を掃除に向かった際に落としてしまったみたいですね」

 問題の女性が部屋に入る前、アルバイトの男が部屋の掃除に向かっている。その際、特別不審な点はなかったようだが、それは男が気づかなかっただけのようだ。問題は確かに発生していたのである。

「でも、それならば帰る際に気づかない? 話の流れから察するに、シャッター脇の出入り口は業務用の出入り口なのでしょう? お客さんに使われたら困るでしょうし、鍵を閉めてから戻りますわよね? その時に鍵がないことに気づくのではないかしら」

 不審点を抉り出すかのような一言に、なぜだか一里之自身があたふたとしてしまう。しかしながら、ファイルには疑問の答えが書かれていた。

「この時点で、外は雪が降っており、もう客も来ないだろうと、鍵をかけることを怠ったみたいですね。それで、管理小屋に戻ってから鍵の紛失に気がついたと。仮に落としてしまったとしても外は雪が積もり始めており、探そうにも探せない状況。客が入るとは思えなかったから、そのまま管理小屋へと戻ってしまった――というのが、アルバイト男性の証言ですね」

 なんとも曖昧な証言なのだろうか。自分で読み上げておきながら、アルバイト男性の証言には不信感を抱いた。もし、それらが事実だとしても、なんとも無責任な男だろうか。アルバイトに留まっていた理由も分からなくはない。

 ふと、黙り込んだままのコトリのほうへと視線をやる一里之。彼女は好奇心を抑えられないと言わんばかりに目を輝かせていた。

「鍵のかかったホテルの階段の中程で見つかった鍵。首を吊った女性、そして密室――。あぁ、これこれ。この感じ……堪りませんわ」

 どうやら彼女は彼女で変な意味の喜び――もとい、悦びを得ているようだった。もう、頭の中では完全に理解していた。なから自分の与えられた仕事はおそらく、このお嬢様の異常ともいえる趣味に付き合わされ続ける仕事なのであろう。
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