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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】

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 鍵を回した一里之を差し置いて、ドアノブを回すと扉を開けるコトリ。ドアが開いた瞬間、すえた埃っぽさのようなものがドアから漏れ出し、思わず一里之は咳込んでしまった。昔の空気がずっと中に残っていたような感覚だった。一応、物件として管理されていたからなのか、中まで落書きをされているようなことはなかったが。

「この特有の空気――嫌いじゃありませんわ」

 コトリはそう言うと息を大きく吸い込む。その恍惚感のようなものに満ちた横顔は、もはや異常としか思えない。

 ドアの向こう側は空っぽの駐車スペースと、2階へと直結する階段が伸びている。駐車スペースのほうに車を停めた場合も、わざわざ出入り口のドアの近くまでやって来て階段をのぼらねばならない構造らしい。

 コトリを先頭にして軋む階段をのぼる。立ち位置からコトリに続く形になった一里之は、上のほうに視線をやることができなかった。ロングスカートであるとはいえ、ちょっとした事故でコトリのコトリが見えてしまうかもしれない。お世話係として、これから良好な関係を築くことを考えると、そのようなトラブルは避けたほうがいい。さっきのお姫様だっこの件もあり、変に一里之はコトリを女性として警戒していた。

 階段は人がやっと1人歩ける程度の広さしかない。階段をのぼってどん詰まりになると、左手に扉が現れた。駐車スペースの真上に位置する部屋。このホテルの本丸である。

「――実はわたくし、こう言うところに入るのは初めてですの。どんなところなのかは色々と小耳に挟んでいるけれども」

 すなわち、ここが存在する主たる目的もまた、彼女は存じているということか。そんなことを考えて首を緩く振る。意識しないようにしようとすると、なぜ意識してしまうのか。

 コトリがドアノブに手を伸ばそうとする。もしかすると、そこにも鍵がかかっているかもしれないと思ったが、しかしドアノブはあっさりと回ってしまった。コトリが先導して入り、続いて一里之、最後尾に鯖洲と続く。

 部屋の中は廃墟の割に綺麗だった。綺麗ではあったが、いきなりハートの形をしたベッドにコトリがダイブした時には驚いた。そこで一里之は鯖洲から改めて聞かされることになる。――彼女の異常とも言える趣味のことを。

 廃墟巡りをして写真などを撮影することを趣味とする人が存在することは知っている。あれは、廃墟に一種のノスタルジアを感じるものだと思っている。しかし、鯖洲の説明によると、どうやらコトリのは、それをこじらせてしまったものらしい。
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