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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】

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 その、やけに落ち着いた声質のせいで、一里之は彼女に対して既視感のようなものしか抱けなかった。いや、どこかで理解はしていたのであろうが、あまりの変わりように、頭の処理が追いつかなかったのかもしれない。

「お前が仕事中は徹底して電話に出ねぇから、直々に顔を出さなきゃならねぇんだよ。あの異常なテンションに多少なりとも付き合わされる身にもなれよ。玄界灘――」

 鯖洲の言葉でやっと確信することができた。やはり、こうして鯖洲と会話を交わしているのは、先ほどニャンチムとして一里之達の前に姿を現したメイドなのだ。さっきのハイテンションとはまるで真逆のローテンションではあるが、同一人物であることは間違いない。

「とにかく、今後は電話で連絡を。直接会う用がある時も、お店は避けるようにお願いします」

 胸ポケットから煙草を取り出すと、それをくわえながら「相変わらずめんどくせぇ女だなぁ」と悪態をつく鯖洲。それが聞こえなかったのか、それとも聞こえていたけど無視をしたのかは分からないが、電子タバコから出る水蒸気を吐き出すとニャンチムは口を開いた。

「それで、本日のご用件は? まぁ、大方想像できますが」

 そう言って一里之のほうへと視線を向けてくるニャンチム。鯖洲は煙草に火を点けると、実に美味そうに煙草の煙を吐き出す。

「あぁ、窓辺野不動産から新しい奴が配属されたもんでな。一里之純平だ」

 鯖洲に紹介されて頭を下げる一里之。カラーコンタクトを入れているのか、ニャンチムの目は吸い込まれそうなくらい綺麗なブラウンだった。いや、改めて間近で見ると、かなりの美人である。

「で、こっちはスーパーモエモエ・ニャンチムだ。嘘だと思うだろうが本名だ」

 続けて鯖洲がメイドのことを紹介してくれるが、きっと毎度同じようなやり取りをしているのであろう。小さく溜め息をついたニャンチムが「人のことを散々本名で呼んでおきながら――その冗談がウケたのを見たことないのですが」と大きく溜め息。電子煙草を可愛らしいケースに収めて手荷物へとしまうと、改めて一里之のほうを向き直りスカートの両端を持ってお辞儀をする。

玄界灘冥げんかいなだめい――と申します。どれくらいのお付き合いになるかは分かりませんが、よろしくお願いいたします」

 冥の挨拶の仕方に妙な既視感を覚える。そういえば鯖洲も同じようなことを言っていた。それだけ、お嬢様お世話係は、ころころと人が変わっているのだろう。一里之は改めて「よろしくおねがいします」と頭を下げた。
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