ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】

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 階段をのぼった先に店舗の入り口があり、迷うことなく鯖洲は店内へと入る。わけが分からないまま鯖洲に続いて店内へと入った。田舎から出てきて数年。メイドカフェに入るというのは初めてのことだった。もしかして、本当にアレなのであろうか。お帰りなさいませ、ご主人様――とか言ってもらえるのであろうか。

「お帰りなさいませぇ、ご主人様ぁ」

 ――お帰りなさいませ、ご主人様。ではない。お帰りなさいませぇ、ご主人様ぁ(ハートマーク、猫なで声)である。これが、これが萌えというやつか。店内に入るや否や、数名のメイドからお出迎えを受ける。家でもねぇのに……来たことすらねぇのに、お帰りなさいと言ってもらえる。家に帰ると真っ暗な部屋が待っている独り者の心をくすぐる。

「おう、悪いが玄界灘はいるか?」

 駆け寄ってきたメイドに対して問う鯖洲。ふっと、メイドから笑顔が一瞬だけ消えたような気がした。しかし、すぐに改めて笑顔を浮かべてメイドは口を開く。

「そんなお名前のメイドはいませんよぉ」

 メイドの反応に鯖洲は小さく溜め息を漏らし、ぽつりと「めんどくせぇなぁ」と呟く。そして改めてメイドに問うた。

「あー、だったらあれだ。スーパーモエモエ・ニャンチムはいるか?」

 なんだそれ。なんだその、植物の意外な学名みたいなやつ。思わずそんな言葉が口から出そうになる一里之。しかし、どうやらそれで話が通じたようだ。多分、メイドの名前なのであろう。夜の街での源氏名のようなものか。

「あ、ニャンチムですねぇ。ちょっと呼んできますねぇ」

 それにしても、鯖洲を相手にして普通に接客できるメイドも大したものである。中々に度胸があるのかもしれない。

「では、そちらの席に座ってしばらくお待ちくださーい」

 恐らくスーパーモエモエ・ニャンチムであろうメイドに声をかけて戻ってきたメイド。鯖洲を相手にしてもスタイルを崩さぬ度胸をたたえて、名札に目をやる。

 ――アドルフ・ヒトラー。

 なんだこの店。というか、メイドのネーミングセンス。ネーミングセンスどこいった。なんか植物の学名だけならまだしも、歴史上の人物までいるんですけど。

「お前、もしかしてこういうとこ好きだったりするのか? 正直、俺はこういうのガキくさくて構わん。ここで働いているやつらは、誰も客のことをご主人様だとかお嬢様だとか思っちゃいねぇよ」

 その、こういうところに連れてきたのは鯖洲ではないか。ソファーにどかりと座った鯖洲に対し、できるだけソファーの端っこに、申しわけ程度に腰をかける一里之。ここは本当に日本なのか。誰か教えて欲しい。
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