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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【プロローグ】
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「あら、この窓からの景色とかお洒落じゃありませんこと? 鬱蒼とした木々が立ち並ぶだけの景色。素敵ですこと」
物件情報に触れようとする彼を尻目に、お嬢様はスマートフォンを取り出して自撮りをしたりとやりたい放題である。よくもまぁ、こんな廃墟となったラブホテルで楽しめるものだ。そんなことを思いつつ、彼は咳払いをしてから始める。
「ここ【幻惑館】は、平成15年まで営業していたモーテル型の――俗に言うラブホテルになります。敷地の中には、この部屋と同じ構造のものが他に3棟あります。かつては随分と栄えていたようですが、街中に同様のラブホテルができるようになってからは、峠の中腹という立地条件が悪いせいか客足が減少。平成14年には、3棟のうち1棟で、女性の首吊り死体が見つかるという事件がありました。これは自殺として片付けられているようです。その1棟が――まさしくこの部屋です」
彼達がいる部屋。お嬢様がさっきから全力ではしゃいでられる部屋は――俗にいう事故物件というやつである。普通の女子ならば怖がって当然のように思える。いや、普通の人だったら、男子だって恐ろしいだろう。それなのに、お嬢様にいたってはキラキラとした時間をお過ごしになっている。
「ほら、あのお嬢の恍惚の表情を見ろ。もう、あれ――お嬢なりのゾーンに入ってるからな。覚えとけ」
ベッドの上に腰をかけ、薄ら笑いを浮かべながら自撮りを繰り返すお嬢様。とうとう、お綺麗なお召し物であるにも関わらずに、ベッドへと横になると、ゴロゴロと転がり始めた。一応、マットレスらしきものは残っているものの、埃が立つ。
「セバスチャン……。わたくし、あまり詳しくないのだけど、こういうところというのは女性がお一人で来るような場所なのかしら?」
ふと動きを止めると起き上がるお嬢様。鯖洲は煙草を取り出すと、当たり前のようにそれをくわえて火を点ける。事故物件の廃墟とはいえ、一応ここは会社の持ち物なのであるが。
「まぁ、普通は違うわな。男女で来るところだ――」
煙を漂わせながら答えた鯖洲に向かって、一瞬だけ真顔を見せるお嬢様。これまでのはしゃいだ声とは違い、トーンをやや下げた様子で呟いた。
「だとしたら、こんなところで自殺を図るのはおかしくないこと?」
その直後、うっすらと笑みを浮かべたお嬢様の表情が、なんとも妖艶のように見えた彼……一里之純平は、なぜだか小さく身震いをしたのだった。
物件情報に触れようとする彼を尻目に、お嬢様はスマートフォンを取り出して自撮りをしたりとやりたい放題である。よくもまぁ、こんな廃墟となったラブホテルで楽しめるものだ。そんなことを思いつつ、彼は咳払いをしてから始める。
「ここ【幻惑館】は、平成15年まで営業していたモーテル型の――俗に言うラブホテルになります。敷地の中には、この部屋と同じ構造のものが他に3棟あります。かつては随分と栄えていたようですが、街中に同様のラブホテルができるようになってからは、峠の中腹という立地条件が悪いせいか客足が減少。平成14年には、3棟のうち1棟で、女性の首吊り死体が見つかるという事件がありました。これは自殺として片付けられているようです。その1棟が――まさしくこの部屋です」
彼達がいる部屋。お嬢様がさっきから全力ではしゃいでられる部屋は――俗にいう事故物件というやつである。普通の女子ならば怖がって当然のように思える。いや、普通の人だったら、男子だって恐ろしいだろう。それなのに、お嬢様にいたってはキラキラとした時間をお過ごしになっている。
「ほら、あのお嬢の恍惚の表情を見ろ。もう、あれ――お嬢なりのゾーンに入ってるからな。覚えとけ」
ベッドの上に腰をかけ、薄ら笑いを浮かべながら自撮りを繰り返すお嬢様。とうとう、お綺麗なお召し物であるにも関わらずに、ベッドへと横になると、ゴロゴロと転がり始めた。一応、マットレスらしきものは残っているものの、埃が立つ。
「セバスチャン……。わたくし、あまり詳しくないのだけど、こういうところというのは女性がお一人で来るような場所なのかしら?」
ふと動きを止めると起き上がるお嬢様。鯖洲は煙草を取り出すと、当たり前のようにそれをくわえて火を点ける。事故物件の廃墟とはいえ、一応ここは会社の持ち物なのであるが。
「まぁ、普通は違うわな。男女で来るところだ――」
煙を漂わせながら答えた鯖洲に向かって、一瞬だけ真顔を見せるお嬢様。これまでのはしゃいだ声とは違い、トーンをやや下げた様子で呟いた。
「だとしたら、こんなところで自殺を図るのはおかしくないこと?」
その直後、うっすらと笑みを浮かべたお嬢様の表情が、なんとも妖艶のように見えた彼……一里之純平は、なぜだか小さく身震いをしたのだった。
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