32 / 48
第二話 お客様狩り
6
しおりを挟む
その言葉に、しばらく受話口の向こう側は沈黙した。そして、大きな声で笑い出した。
「あっはっはっは! その言葉、そのまんまお前に返してやるよ。やっぱり自覚はないってことなんだなぁ。いやいや、こいつはおめでたいわ」
一体、なにがおかしいというのか。短気な彼の頭に血が昇るのは早かった。
「言っている意味が分からない! なにが言いたいのかはっきりしろ!」
思わず怒鳴りつけるが、電話の向こうからは「あー、怖い怖い」という言葉が軽い感じで帰ってきた。そして、淡々と続けられる。
「だったら、こんな話はどうだ? あるところに実に平和に暮らしている集落があった。その集落に集まる人間は、当然ながら長所もあれば短所もある。ただ、余計な粗を探すような真似をしなければ容認できるレベルの短所ばかりで、みんな仲良く暮らしていました」
なぜ、物事をはっきり言わないのか。自分がなぜこんなところで、こんな目に遭わねばならないのか理由を問うているのに、妙に回りくどい例え話を出される始末。口を出したところで、一方的な話をされるのであろう。だから、彼はあえて黙っていた。
「そこに正義のヒーローがやってきた。そして、集落にいる人間の、それまで誰も気にしていなかったような短所を指摘し始めた。周りはやめるように諭したが、本人は止まらない。正義の名のもと、短所のある者を悪者として制裁を続けた。その後、何事もなかったかのように集落を去っていった。さて、この時、集落の人間から見て、正義のヒーローは本当に正義のヒーローだったのだろうか?」
なんともくだらない問いかけだろうか。そんなこと、わざわざ問いかけられなくとも彼には分かった。
「集落の人間の短所を指摘してやったのは相手のためを思ってのことだ。悪気がないのだから、それで良いんじゃないか? むしろ、それまでその集落には短所を指摘してやる人間がいなかったのだから、正義のヒーローだと言えるだろう」
小野は真面目に答えたつもりだ。それ以外の解があるのだろうか。いいや、あるわけがない。
「――いや、引くわ。世の中、話しが通じない人間がいるっていうけど、あんたみたいに、自分の考えが絶対的に正しいって思ってる人間が本当にいるんだなぁ。いや、勉強になったよ。おっと、話がずれたな。俺が言いたいのは、そこでじっとしていてもなにも起きないってことだ。解放されたらさっさと動けよ。それが、今できる最善のことだと思うぜ。なっ、正義のヒーロー」
「あっはっはっは! その言葉、そのまんまお前に返してやるよ。やっぱり自覚はないってことなんだなぁ。いやいや、こいつはおめでたいわ」
一体、なにがおかしいというのか。短気な彼の頭に血が昇るのは早かった。
「言っている意味が分からない! なにが言いたいのかはっきりしろ!」
思わず怒鳴りつけるが、電話の向こうからは「あー、怖い怖い」という言葉が軽い感じで帰ってきた。そして、淡々と続けられる。
「だったら、こんな話はどうだ? あるところに実に平和に暮らしている集落があった。その集落に集まる人間は、当然ながら長所もあれば短所もある。ただ、余計な粗を探すような真似をしなければ容認できるレベルの短所ばかりで、みんな仲良く暮らしていました」
なぜ、物事をはっきり言わないのか。自分がなぜこんなところで、こんな目に遭わねばならないのか理由を問うているのに、妙に回りくどい例え話を出される始末。口を出したところで、一方的な話をされるのであろう。だから、彼はあえて黙っていた。
「そこに正義のヒーローがやってきた。そして、集落にいる人間の、それまで誰も気にしていなかったような短所を指摘し始めた。周りはやめるように諭したが、本人は止まらない。正義の名のもと、短所のある者を悪者として制裁を続けた。その後、何事もなかったかのように集落を去っていった。さて、この時、集落の人間から見て、正義のヒーローは本当に正義のヒーローだったのだろうか?」
なんともくだらない問いかけだろうか。そんなこと、わざわざ問いかけられなくとも彼には分かった。
「集落の人間の短所を指摘してやったのは相手のためを思ってのことだ。悪気がないのだから、それで良いんじゃないか? むしろ、それまでその集落には短所を指摘してやる人間がいなかったのだから、正義のヒーローだと言えるだろう」
小野は真面目に答えたつもりだ。それ以外の解があるのだろうか。いいや、あるわけがない。
「――いや、引くわ。世の中、話しが通じない人間がいるっていうけど、あんたみたいに、自分の考えが絶対的に正しいって思ってる人間が本当にいるんだなぁ。いや、勉強になったよ。おっと、話がずれたな。俺が言いたいのは、そこでじっとしていてもなにも起きないってことだ。解放されたらさっさと動けよ。それが、今できる最善のことだと思うぜ。なっ、正義のヒーロー」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
月明かりの儀式
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。
儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。
果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
生徒会長・七原京の珈琲と推理 学園専門殺人犯Xからの手紙
須崎正太郎
ミステリー
殺人現場に残された、四十二本のカッターナイフと殺人犯Xからの手紙――
安曇学園の体育倉庫にて殺された体育教師、永谷。
現場に残されていたカッターはすべて『X』の赤文字が描かれていた。
遺体の横に残されていたのは、学園専門殺人犯Xを名乗る人物からの奇妙な手紙。
『私はこの学校の人間です。
私はこの学校の人間です。
何度も申し上げますが、私はこの学校の人間です』……
さらにXからの手紙はその後も届く。
生徒会長の七原京は、幼馴染にして副会長の高千穂翠と事件解決に乗り出すが、事件は思いがけない方向へ。
学生によって発見されたXの手紙は、SNSによって全校生徒が共有し、学園の平和は破られていく。
永谷殺害事件の真相は。
そして手紙を届ける殺人犯Xの正体と思惑は――
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【短編】How wonderful day
吉岡有隆
ミステリー
朝起きて、美味しい飯を食べて、可愛いペットと戯れる。優しい両親が居る。今日は仕事が休み。幸せな休日だ。
※この作品は犯罪描写を含みますが、犯罪を助長する物ではございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる