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第二話 お客様狩り

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 その言葉に、しばらく受話口の向こう側は沈黙した。そして、大きな声で笑い出した。

「あっはっはっは! その言葉、そのまんまお前に返してやるよ。やっぱり自覚はないってことなんだなぁ。いやいや、こいつはおめでたいわ」

 一体、なにがおかしいというのか。短気な彼の頭に血が昇るのは早かった。

「言っている意味が分からない! なにが言いたいのかはっきりしろ!」

 思わず怒鳴りつけるが、電話の向こうからは「あー、怖い怖い」という言葉が軽い感じで帰ってきた。そして、淡々と続けられる。

「だったら、こんな話はどうだ? あるところに実に平和に暮らしている集落があった。その集落に集まる人間は、当然ながら長所もあれば短所もある。ただ、余計な粗を探すような真似をしなければ容認できるレベルの短所ばかりで、みんな仲良く暮らしていました」

 なぜ、物事をはっきり言わないのか。自分がなぜこんなところで、こんな目に遭わねばならないのか理由を問うているのに、妙に回りくどい例え話を出される始末。口を出したところで、一方的な話をされるのであろう。だから、彼はあえて黙っていた。

「そこに正義のヒーローがやってきた。そして、集落にいる人間の、それまで誰も気にしていなかったような短所を指摘し始めた。周りはやめるように諭したが、本人は止まらない。正義の名のもと、短所のある者を悪者として制裁を続けた。その後、何事もなかったかのように集落を去っていった。さて、この時、集落の人間から見て、正義のヒーローは本当に正義のヒーローだったのだろうか?」

 なんともくだらない問いかけだろうか。そんなこと、わざわざ問いかけられなくとも彼には分かった。

「集落の人間の短所を指摘してやったのは相手のためを思ってのことだ。悪気がないのだから、それで良いんじゃないか? むしろ、それまでその集落には短所を指摘してやる人間がいなかったのだから、正義のヒーローだと言えるだろう」

 小野は真面目に答えたつもりだ。それ以外の解があるのだろうか。いいや、あるわけがない。

「――いや、引くわ。世の中、話しが通じない人間がいるっていうけど、あんたみたいに、自分の考えが絶対的に正しいって思ってる人間が本当にいるんだなぁ。いや、勉強になったよ。おっと、話がずれたな。俺が言いたいのは、そこでじっとしていてもなにも起きないってことだ。解放されたらさっさと動けよ。それが、今できる最善のことだと思うぜ。なっ、正義のヒーロー」
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