201 / 203
エピローグ 【現在 大和田賢治】
4
しおりを挟む
警部はそう言うと立ち上がり、退室を促すかのごとく大和田に道を譲る。もちろん、こんな中途半端な状態で放り出されるほうは、たまったものではない。
「ちょっと待ってください! もう帰れ――という意味ですか?」
気をつけていたが、独特の訛りが出てしまった。郷に入れば郷に従え。なんだかんだで、あの地域に馴染んでしまっている自分に、改めて気づかされた。
「後はこちらでうまいことやる。辞令が出たら引っ越しやらなんやらで大変だろう? しばらく有給でも取ってゆっくりしろ」
それは、決して大和田のことを気遣って出てきた言葉ではないような気がした。むしろ、事実上の謹慎処分のように思えてならない。
「一体、あそこには……ミノタウロスの森には何があるんです?」
どう考えたっておかしい。どうして、あの地域で起きたことがうやむやにされてしまうのか。もはやそれは、ミノタウロスの森が何かしらの影響を与えているとしか思えない。
「――世の中な、知らないほうがいいことがあるんだ。悪いことは言わない。あそこで起きたことは忘れろ。下手に嗅ぎ回ると、いよいよ庇えなくなってしまうからな」
まだ食らいつこうとして思い止まった。警部の真っ直ぐな目が嘘をついているとは思えない。これで引き下がってくれ――との懇願の色さえ見えた。
正義は悪を討ち、悪は正義に淘汰される。それがまかり通る世の中だと信じて疑わなかった大和田。だからこそ警察という組織に憧れがあったのだし、それが世の中、当たり前に通るものだと思っていた。
「本当に悪いことは言わん。あの森には昔から化け物が住んでるんだよ。それは時代に合わせて姿を変え、形を変え――けれども現代まで生き続けている。ここだけの話、俺も若い頃、あそこの駐在所にいたんだ。もちろん、警察官として煮湯を飲まされるような経験もした。けれども、その結果として今の俺がある。いいか? もうあそこのことは忘れるんだ」
かつて警部もあそこの駐在をしていた。それだけで、言葉に妙な説得力が生まれてしまうのはなぜだろうか。
ミノタウロスの森は、西尾――いや、赤松朱里が凶行に及ぶ前から、ミノタウロスの森として恐れられていた。あの森は一体、どれだけの業を背負っているというのだろうか。
警部に何度も釘を刺され、そのまま有給の届出までして帰路についた。警察官という性質上、有給なんて形式上のものがほとんどなのだが。
「ちょっと待ってください! もう帰れ――という意味ですか?」
気をつけていたが、独特の訛りが出てしまった。郷に入れば郷に従え。なんだかんだで、あの地域に馴染んでしまっている自分に、改めて気づかされた。
「後はこちらでうまいことやる。辞令が出たら引っ越しやらなんやらで大変だろう? しばらく有給でも取ってゆっくりしろ」
それは、決して大和田のことを気遣って出てきた言葉ではないような気がした。むしろ、事実上の謹慎処分のように思えてならない。
「一体、あそこには……ミノタウロスの森には何があるんです?」
どう考えたっておかしい。どうして、あの地域で起きたことがうやむやにされてしまうのか。もはやそれは、ミノタウロスの森が何かしらの影響を与えているとしか思えない。
「――世の中な、知らないほうがいいことがあるんだ。悪いことは言わない。あそこで起きたことは忘れろ。下手に嗅ぎ回ると、いよいよ庇えなくなってしまうからな」
まだ食らいつこうとして思い止まった。警部の真っ直ぐな目が嘘をついているとは思えない。これで引き下がってくれ――との懇願の色さえ見えた。
正義は悪を討ち、悪は正義に淘汰される。それがまかり通る世の中だと信じて疑わなかった大和田。だからこそ警察という組織に憧れがあったのだし、それが世の中、当たり前に通るものだと思っていた。
「本当に悪いことは言わん。あの森には昔から化け物が住んでるんだよ。それは時代に合わせて姿を変え、形を変え――けれども現代まで生き続けている。ここだけの話、俺も若い頃、あそこの駐在所にいたんだ。もちろん、警察官として煮湯を飲まされるような経験もした。けれども、その結果として今の俺がある。いいか? もうあそこのことは忘れるんだ」
かつて警部もあそこの駐在をしていた。それだけで、言葉に妙な説得力が生まれてしまうのはなぜだろうか。
ミノタウロスの森は、西尾――いや、赤松朱里が凶行に及ぶ前から、ミノタウロスの森として恐れられていた。あの森は一体、どれだけの業を背負っているというのだろうか。
警部に何度も釘を刺され、そのまま有給の届出までして帰路についた。警察官という性質上、有給なんて形式上のものがほとんどなのだが。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説



セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる