ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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最終章 幕引き【現在 七色七奈】

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「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 このまますんなりと帰ってしまうのも、なんだか大和田に申し訳がない。私は大和田と茶の席を囲み、少しばかり談笑した。

 特に私は、これからの大和田の立場が気になっていた。それが例え正しかろうと、この辺りで有数の権力者に逆らったのだ。かと言って、それを考慮して他の地域に飛ばされるとも限らない。下手をすれば、このまま駐在所に居座ることになるかもしれない。

 話題としてその辺りについて聞いてみたが、割りかし大和田は楽観的に考えているようだ。むしろ、これまで歴代の駐在が逆らえなかった相手に逆らったということで、警察官としての箔がついたと思っているようだった。その楽観的な考え方は、田舎という狭いコミニュティの恐ろしさを知らないからか。多分、苦労することになるだろう。

 飲み終えたら出ようと思っていたのだが、一杯茶は縁起が悪いらしく、そのまま二杯、三杯と飲まされる。ちょうどタイミング良く駐在所に電話がかかってきたところを見計らって、私は荷物を手に立ち上がる。

 電話を取った大和田は神妙な表情を浮かべつつ、何度も相槌を打ち、最終的に「これからそちらに伺います」と締めて電話を切った。

「捜査本部から呼び出しだ。交代要員が来るらしいけど、俺――行かなきゃ」

 タイミングとしてはベストであろう。大和田は本部に向かうらしいし、ここを留守にするためにはいかないため交代要員がくるらしい。そもそも部外者の私が駐在所にいるというのは妙な話であるし、大和田自身もここを離れるということは、私も離れざるを得なくなる。

 かつての地元から姿を消すには頃合いなのかもしれない。

「それじゃあ、私はそろそろ――」

 大和田に気を遣わせないように、そう言って頭を下げると私は踵を返した。

「見送るよ」

 私の後について駐在所を出てきてくれた大和田。予期せぬ形で実現することになった私の里帰りも、どうやら終わりを迎えるらしい。

 車に乗り込んでエンジンをかける。ウインドウを開くと、私は大和田に声をかけた。

「色々とお世話になりました」

 また進展があったら連絡ください――と付け足してしまいそうになったが、あえてそれは言わなかった。なんだか情報だけを大和田に求めてしまうように思えたから。

「いやいや、何度も言うけど、俺が勝手に首を突っ込んだだけだから。こちらこそ、色々とありがとう」

 礼を言われるようなことはなにひとつしていないが、私はそれに笑顔で返して車をゆっくりと発車させる。
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