ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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最終章 幕引き【現在 七色七奈】

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「あ、ちなみになんですけど――」

 車を停めると鍵を抜きながら口を開く。

「彼女のビデオ撮影に協力した人達ってどうなるんですか? まさか、罪に問われたりはしませんよね?」

 あれらのビデオテープは、ただ私をおびき出すためだけに作られたものだ。あの映画的な構成により、ふたつの事件をひとつのように見せかけていたわけであるが、そもそも彼女に協力した人達はどうなってしまうのか。赤の他人とはいえ、彼らが何かしらの罪に問われてしまうのは忍びない。

「いや、罪には問われないだろうね。もちろん、彼女――西尾朱里が何をしようとしていのか知っていた上で協力したのであれば、何かしらの罪に問われる可能性はあるだろうけど、おそらくは何も知らされないまま撮影されただろうから。まぁ、その辺りの詳しいことは本人からじっくり聞かせてもらうさ」

 私と大和田は駐在所へと戻ってきた。行き当たりばったりの無計画な私。ここには随分とお世話になった。もう、テレビに繋げっぱなしのビデオデッキや、アダプターなどは不要だろう。帰るために片付けなければ。

「大和田さん、改めて色々とありがとうございました」

「いやいや、俺はただ好きで首を突っ込んだだけだから」

 私が深々と頭を下げると、それに負けじとばかりに、さらに深く頭を下げてくる大和田。私よりも低姿勢になった大和田の頭がちらりと見えて吹き出しそうになってしまった。

「あ、でも……せめて、連絡先の交換くらいはさせてもらってもいいかな? 今後の進展なんかも連絡したいし」

 そう言ってスマホを取り出す大和田。私はそれに応じて連絡先を交換した。

「さてと、お世話になったこの拠点も綺麗にしないと」

 私はまずビデオデッキなどの機材の撤収に取りかかった。あの街に戻り、あのお店に機材を返却する際、私はどんな顔をすればいいのだろうか。それを考えると気が重たかった。

 全ての始まりは、あの店だったのだ。あの店で、偶然に等しい再会さえ果たさなければ、私はこんなところに戻っては来なかっただろうし、過去のことなど忘れて生きていたことであろう。もちろん、私に依存するあまり、離れてから異常な執着心を見せていた友人がいたことも知らずに。

「大和田さん。ここを片付けたら、今日のうちに帰りますね」

 私を取り巻いた凶事は終わりを迎えた。まさか、子どもの頃に恐れた森に戻ってくることになるとは思ってもいなかったが。
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