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最終章 真相【過去 赤松朱里】
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全ての責任は――彼女にある。自分には一切ない。彼女が自分の元を離れさえしなければ、こんなことにはならなかったのだ。自己中心的な言い訳ばかりが頭の中をぐるぐると回っている。でも、それが事実なのだから仕方がない。実際、彼女がずっと自分のそばにいてくれたら……唯一の友達でいてくれたら、こんな悲劇は起きなかっただろう。
「でも――私は死んでた。この際だから、はっきり言っておくね」
七奈はそう言うと、小さく深呼吸をしてから、改めて口を開いた。
「私はあなたのために生まれてきたわけでもなければ、あなたのために生きているわけでもない。あなたの友達ではあったけど、でも子守役じゃないの!」
あまりにも理不尽で、あまりにも身勝手。そんな自分であっても、彼女なら許してくれると思っていた。笑って流して、なかったことにしてくれると思っていた。それなのに、自分は負担になっていたというのか。それが当たり前だと思っていたのに。それを喜んで、彼女はやっていたと思ったのに。
「人の優しさにつけ込んで、散々引っ張り回した挙げ句、こうなったのは私があなたから離れたから? で、逆恨みをしてこんなことを目論んだ?」
それは、これまで見たことのない表情だった。少なくとも自分は知らない、冷たく強張った顔。
「――いい加減にして。私がいようとも、いなかろうとも、あなたの置かれた環境は変わらなかったと思う。私にだって私の意思があるの。例えこの土地を離れることがなくても、自然とあなたとは距離を置くようにしていたと思う」
その一言が、トゲのように胸の奥へと突き刺さる。あまりにも痛いものだから、脳内物質か何かが分泌され、感覚だけが残って痛みがまるでないという気持ちの悪さに襲われた。
執着。自分でも思っていた以上に、自分は七色七奈に執着し、そして依存していたらしい。今さらになって思い知らされる。
思わず笑いが溢れた。ひとつ漏れると我慢ができなくなる。それは先程から分泌され続けている脳内物質――いいや、脳内麻薬と関係があるのだろうか。
次第にそれは大きくなり、ミノタウロスの森には笑い声だけが響いた。駐在は対処に困ったような表情を浮かべ、七奈は困ったかのように苦笑いを浮かべていた。
こうして、ミノタウロスの森で起きた惨劇は――少なくとも朱里が引き起こしてしまった惨事は、本人の笑い声をバックに、騒がしく幕をおろしたのであった。
「でも――私は死んでた。この際だから、はっきり言っておくね」
七奈はそう言うと、小さく深呼吸をしてから、改めて口を開いた。
「私はあなたのために生まれてきたわけでもなければ、あなたのために生きているわけでもない。あなたの友達ではあったけど、でも子守役じゃないの!」
あまりにも理不尽で、あまりにも身勝手。そんな自分であっても、彼女なら許してくれると思っていた。笑って流して、なかったことにしてくれると思っていた。それなのに、自分は負担になっていたというのか。それが当たり前だと思っていたのに。それを喜んで、彼女はやっていたと思ったのに。
「人の優しさにつけ込んで、散々引っ張り回した挙げ句、こうなったのは私があなたから離れたから? で、逆恨みをしてこんなことを目論んだ?」
それは、これまで見たことのない表情だった。少なくとも自分は知らない、冷たく強張った顔。
「――いい加減にして。私がいようとも、いなかろうとも、あなたの置かれた環境は変わらなかったと思う。私にだって私の意思があるの。例えこの土地を離れることがなくても、自然とあなたとは距離を置くようにしていたと思う」
その一言が、トゲのように胸の奥へと突き刺さる。あまりにも痛いものだから、脳内物質か何かが分泌され、感覚だけが残って痛みがまるでないという気持ちの悪さに襲われた。
執着。自分でも思っていた以上に、自分は七色七奈に執着し、そして依存していたらしい。今さらになって思い知らされる。
思わず笑いが溢れた。ひとつ漏れると我慢ができなくなる。それは先程から分泌され続けている脳内物質――いいや、脳内麻薬と関係があるのだろうか。
次第にそれは大きくなり、ミノタウロスの森には笑い声だけが響いた。駐在は対処に困ったような表情を浮かべ、七奈は困ったかのように苦笑いを浮かべていた。
こうして、ミノタウロスの森で起きた惨劇は――少なくとも朱里が引き起こしてしまった惨事は、本人の笑い声をバックに、騒がしく幕をおろしたのであった。
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