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最終章 真相【過去 赤松朱里】
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とっさに肘を後ろへと突き出し、湯川からの拘束を逃れた。荷物の中に斧はあれど、しかし抜き出している暇はなかった。ひるんだ湯川からロープを奪うと、今度はこちらが首を締め上げてやった。
夢中だった。必死だった。気がつけば、周囲が見えなくなるほど――湯川の息がすでにないことに気づけない程にロープを固く締め上げていた。
体格差も力の差もあるはずだが、火事場の馬鹿力というやつか。それとも、この森を彷徨うミノタウロスが、ほんの少しの間だけ、朱里の中に宿ったのだろうか。気がつけば、湯川はだらりと両手を降ろし、その足を前方へと放り出したまま息絶えていた。
ようやく湯川の死に気づいた朱里は、七奈達への見せしめを兼ねて、鳥居に湯川の死体を吊るすことにした。あの時の面子に関わろうとすると、こうなってしまう――と。危害が及ぶのは本人達ではなく、その関わった人間であると忠告したつもりだった。
人を殺してしまったことは、紛れもない事実である。しかし、ここは実に特殊な土地。犯してしまったはずの罪が、綺麗さっぱり消えて無くなってしまう場所だ。朱里がそう信じたように、湯川智昭の死は公になることなく闇に葬られることになった。
良くも悪くも世間体を気にする田舎ならではの修正。この辺りの大人達は、ミノタウロスの森で起きたことを、何度無かったことにすれば気がすむのか。ありがたいことではあるし、それを利用したからこそ今でも綺麗な身でいることができる朱里からすれば、田舎独特の風習――隠蔽体質には感謝しかない。
予定外のことは多少は起きたものの、朱里の計画は着実に進んでいった。七色七奈はビデオテープの指示に従ってビデオテープを集めて回った。これは、朱里が予想していたスピードを遥かに上回った。駐在を味方につけたから、ビデオテープ探しも捗ったのであろう。
そして、ミノタウロスの森で感動の再会。それも冷めやらぬ内に別れが訪れるはずだった。七色七奈はミノタウロスの森で殺された人間の末路――すなわち、公にはされないまま隠蔽された死を知った。自分もそうなるのだと思いながら、最期の時を迎えるはずだった。そのために、たったそれだけのために、ここまで手の込んだことをしたのだから。
それなのに、この有様はなんだ。立場的にこちらが不利なのは事実だが、なんとかなると思っていた。まさか、ランタンを投げつけられるとは思ってもいなかった。
夢中だった。必死だった。気がつけば、周囲が見えなくなるほど――湯川の息がすでにないことに気づけない程にロープを固く締め上げていた。
体格差も力の差もあるはずだが、火事場の馬鹿力というやつか。それとも、この森を彷徨うミノタウロスが、ほんの少しの間だけ、朱里の中に宿ったのだろうか。気がつけば、湯川はだらりと両手を降ろし、その足を前方へと放り出したまま息絶えていた。
ようやく湯川の死に気づいた朱里は、七奈達への見せしめを兼ねて、鳥居に湯川の死体を吊るすことにした。あの時の面子に関わろうとすると、こうなってしまう――と。危害が及ぶのは本人達ではなく、その関わった人間であると忠告したつもりだった。
人を殺してしまったことは、紛れもない事実である。しかし、ここは実に特殊な土地。犯してしまったはずの罪が、綺麗さっぱり消えて無くなってしまう場所だ。朱里がそう信じたように、湯川智昭の死は公になることなく闇に葬られることになった。
良くも悪くも世間体を気にする田舎ならではの修正。この辺りの大人達は、ミノタウロスの森で起きたことを、何度無かったことにすれば気がすむのか。ありがたいことではあるし、それを利用したからこそ今でも綺麗な身でいることができる朱里からすれば、田舎独特の風習――隠蔽体質には感謝しかない。
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そして、ミノタウロスの森で感動の再会。それも冷めやらぬ内に別れが訪れるはずだった。七色七奈はミノタウロスの森で殺された人間の末路――すなわち、公にはされないまま隠蔽された死を知った。自分もそうなるのだと思いながら、最期の時を迎えるはずだった。そのために、たったそれだけのために、ここまで手の込んだことをしたのだから。
それなのに、この有様はなんだ。立場的にこちらが不利なのは事実だが、なんとかなると思っていた。まさか、ランタンを投げつけられるとは思ってもいなかった。
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