ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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最終章 真相【過去 赤松朱里】

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 せっかく面白い趣向で――ふたつの事件をひとつにまとめるという手法を取ったのに、本人が登場されては堪らない。あれらがそれぞれ別々の時期に起きたことであると暴露されてしまっては、これまでの苦労が水の泡となってしまうだろう。偶然ではあるが、その偶然を朱里は呪った。

 なんとかして湯川智昭を七色七奈達から遠ざけねばならない。しかしながら、どのようにして湯川智昭を遠ざければいいのか。色々と考えた結果、朱里は実に直接的な手法を取ることにした。まず、湯川の実家を調べ上げた。これに関しては、良くも悪くも世間が狭い田舎。そこら辺にいるおばちゃんに話を聞けば、実にあっさりと、簡単に教えてもらえた。

 後は自分で考えていた以上に簡単だった。まず、こちらから店に電話をした時点で、幸いにも店に戻っていた湯川智昭が電話口に出た。

 ミノタウロスの森に入って、無事に脱出できたのは湯川と朱里だけだ。あの日以来、それはきっと湯川の中では封じられた記憶になっていたのであろう。こちらからミノタウロスの森の話題に触れると、湯川は露骨に拒否反応を示した。しかしながら、会って話したいことがあると話をすると、思惑通りミノタウロスの森の前で会うことになった。

 ――夏帆を殺したのは、お前じゃないのかって思っている。

 開口一番、湯川が言い放った言葉がそれだった。ミノタウロスの森には元よりミノタウロスなんて化け物はいない。中学生の頃は、頭のおかしい化け物が森に潜んでいるかもしれないと信じていたが、大人になってよくよく考えてみれば、犯人が誰なのかは明白だと。

 証拠はないが、夏帆を殺すことができたのは近くにいた朱里しかいない。それが湯川の考えだった。

 どうやら、湯川は邪魔な存在のようだ。幸いなことに、ここはミノタウロスの森だ。何が起きても、大人達が全てをなかったことにしてくれる特殊な場所。元より彼のことは殺すつもりだったし、だからこそミノタウロスの森の前に呼び出したのであるが、ひとつだけ想定外のことが起きた。

 湯川はロープをバイクの荷台に積んでおり、それを朱里の首へと巻いてきたのだ。どうやら、人を殺すつもりだったのは、こちらだけではなかったようだ。湯川もまた、ここならば殺人をなかったことにできるのではないかと考えたか。

 自分が殺すことは想定できたが、まさか殺されることになるなんて想定できなかった。念のために斧は持ってきていたが、ミノタウロス扮装まではしていなかったし、あまりにも突然のことに戸惑った。
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