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最終章 真相【過去 赤松朱里】
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結局、近場でパートタイマーとして働ける場所を探すことになった。その場所こそ――七色七奈が常連となっていた電器店だったのだ。特に縁や所縁があったわけではない。家電が好きなわけでもなければ、楽をして時給を稼げるだろうと思った程度。そこを選んだのは全くの偶然だったし、必然性など欠けらもなかった。
店で働き始めてしばらく。そこで七色七奈と再会した時は、心臓が口から飛び出るのではないかと思うほどに驚いた。むしろ、彼女がわざわざ自分の居場所を探し当てて、会いにきてくれたのではないかとさえ思った。けれども、実情はまるで違った。彼女は元々店の常連だったのだ。
外出する際、あまり周囲からじろじろと顔を見られたくなくて、なかば当たり前のようにマスクをつけていた。そのせいだったのか、七色七奈はまるで西尾朱里のことには気づかなかった。それどころか、その日が初対面であるかのごとく、実にご丁寧な挨拶をいただいたのだ。
その後、彼女は何度も店にやってきた。マスクをしていたとしても、目元を見れば分かるはず。いつか、小学生の頃に仲の良かった相手だと気づいてくれるはずだ。西尾朱里はそう信じ、特に自ら話しかけるわけでもなく、店の片隅で彼女に気づいてもらえるのを待った。しかし――その日はとうとう訪れなかったのである。それよりも先に、彼女の限界が訪れてしまった。
小学校の頃に離れ離れになってから現在にいたるまで。自分がどのように生きて、どのように過ごしてきたのか。積もる話は山ほどあったが、あちらが自分のことに気づいてくれないのであれば意味がない。西尾朱里の中で、七色七奈に対するヘイトは溜まる一方だった。
そして、それが狂気的な行動へと姿を変えていく。まずは顧客名簿から、七色七奈の個人情報を入手した。そして、短編映画の撮影だと銘打ち、ネット上で協力してくれる人間を集めた。世の中、物好きというものがいるようで、地上波にて放送される予定だと、ちょっと嘘を書き込んだだけで、おそらく役者志望だと思われる人間からの問合せが殺到した。併せて、撮影を手伝ってくれるスタッフや、構成などを一緒に考えてくれるような人間まで募集。地上波というワードは、きっと夢追い人には強力なワードなのであろう。無償――すなわちボランティアだというのに、あっという間に必要な人材が揃ってしまった。
店で働き始めてしばらく。そこで七色七奈と再会した時は、心臓が口から飛び出るのではないかと思うほどに驚いた。むしろ、彼女がわざわざ自分の居場所を探し当てて、会いにきてくれたのではないかとさえ思った。けれども、実情はまるで違った。彼女は元々店の常連だったのだ。
外出する際、あまり周囲からじろじろと顔を見られたくなくて、なかば当たり前のようにマスクをつけていた。そのせいだったのか、七色七奈はまるで西尾朱里のことには気づかなかった。それどころか、その日が初対面であるかのごとく、実にご丁寧な挨拶をいただいたのだ。
その後、彼女は何度も店にやってきた。マスクをしていたとしても、目元を見れば分かるはず。いつか、小学生の頃に仲の良かった相手だと気づいてくれるはずだ。西尾朱里はそう信じ、特に自ら話しかけるわけでもなく、店の片隅で彼女に気づいてもらえるのを待った。しかし――その日はとうとう訪れなかったのである。それよりも先に、彼女の限界が訪れてしまった。
小学校の頃に離れ離れになってから現在にいたるまで。自分がどのように生きて、どのように過ごしてきたのか。積もる話は山ほどあったが、あちらが自分のことに気づいてくれないのであれば意味がない。西尾朱里の中で、七色七奈に対するヘイトは溜まる一方だった。
そして、それが狂気的な行動へと姿を変えていく。まずは顧客名簿から、七色七奈の個人情報を入手した。そして、短編映画の撮影だと銘打ち、ネット上で協力してくれる人間を集めた。世の中、物好きというものがいるようで、地上波にて放送される予定だと、ちょっと嘘を書き込んだだけで、おそらく役者志望だと思われる人間からの問合せが殺到した。併せて、撮影を手伝ってくれるスタッフや、構成などを一緒に考えてくれるような人間まで募集。地上波というワードは、きっと夢追い人には強力なワードなのであろう。無償――すなわちボランティアだというのに、あっという間に必要な人材が揃ってしまった。
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