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最終章 真相【過去 赤松朱里】
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そこから先のことは、あまり覚えていなかった。覚えているのは、斧を振り下ろした時の感覚だけ。何とも言えぬ手応えと、かすかに聞こえた断末魔。もはや、赤松朱里は本物のミノタウロスとなっていた。
――こうして、谷惇と宝田羽衣を殺害してしまった赤松朱里は、遺体を適当に隠してミノタウロスの変装を解いた。理由はいたってシンプル。ミノタウロスの森にいるはずの、他のメンバーと何食わぬ顔で合流するためである。いくらなんでも、ミノタウロスの森に入って自分だけが生き延びたとなれば、疑いの目を向けられることになるだろう。親に行き先は告げていなくとも、この時間、家にいないという事実は曲がらない。ミノタウロスのせいにして隠蔽される可能性はあったとしても、最大限の努力はすべきだ。もはや、彼女の中には殺人衝動と理性が折り合いをつけ始めていた。変に冷静に計算をしている自分がいた。
彼女は他のメンバーを探すべく動き出した。残るメンバーは湯川智昭と丸山夏帆の2人。彼らは普段から良くしてくれているし、クラスの奴らみたいに差別をしたりはしない。今、思い返せば、そう自分に言い聞かせることによって、顔を出そうとする殺人衝動を抑えつけていたのかもしれない。
後に思惑通りに湯川智昭達と合流できた。しかしながら――ここで問題が起きてしまったのだ。
――あなた、もしかしてミノタウロスなんじゃない?
丸山夏帆の最期の言葉だ。それを言われた時は、彼女の勘の鋭さに驚いた。だって、彼女は谷達の死体すら見ていないはずなのだ。何が起きているのかさえ、あまり理解できていないはずなのだ。それなのに、どうしてピンポイントで自分の正体がバレてしまったのか。これは、いまだに解明できていない謎である。
もし、彼女が変に勘の鋭さを見せなかったら、いいや――気づいていたとしても、それをふっと口に出さなかったら。きっと殺さずに済んだのであろう。しかしながら、面と向かって言われてしまったのであれば仕方がない。またしても、殺人衝動が込み上げてきた。
こうして、赤松朱里は実に3人もの人間を葬り去った。そして、湯川智昭とミノタウロスの森を後にして無事に生還した。
翌日になって、辺りは大騒ぎとなってしまった。しかしながら、やはり問題ごとは内で済ませてしまいたい大人達は、決して警察を呼ぶことはしなかった。せいぜい、捜索のために消防団が森に入ったくらいだ。
――こうして、谷惇と宝田羽衣を殺害してしまった赤松朱里は、遺体を適当に隠してミノタウロスの変装を解いた。理由はいたってシンプル。ミノタウロスの森にいるはずの、他のメンバーと何食わぬ顔で合流するためである。いくらなんでも、ミノタウロスの森に入って自分だけが生き延びたとなれば、疑いの目を向けられることになるだろう。親に行き先は告げていなくとも、この時間、家にいないという事実は曲がらない。ミノタウロスのせいにして隠蔽される可能性はあったとしても、最大限の努力はすべきだ。もはや、彼女の中には殺人衝動と理性が折り合いをつけ始めていた。変に冷静に計算をしている自分がいた。
彼女は他のメンバーを探すべく動き出した。残るメンバーは湯川智昭と丸山夏帆の2人。彼らは普段から良くしてくれているし、クラスの奴らみたいに差別をしたりはしない。今、思い返せば、そう自分に言い聞かせることによって、顔を出そうとする殺人衝動を抑えつけていたのかもしれない。
後に思惑通りに湯川智昭達と合流できた。しかしながら――ここで問題が起きてしまったのだ。
――あなた、もしかしてミノタウロスなんじゃない?
丸山夏帆の最期の言葉だ。それを言われた時は、彼女の勘の鋭さに驚いた。だって、彼女は谷達の死体すら見ていないはずなのだ。何が起きているのかさえ、あまり理解できていないはずなのだ。それなのに、どうしてピンポイントで自分の正体がバレてしまったのか。これは、いまだに解明できていない謎である。
もし、彼女が変に勘の鋭さを見せなかったら、いいや――気づいていたとしても、それをふっと口に出さなかったら。きっと殺さずに済んだのであろう。しかしながら、面と向かって言われてしまったのであれば仕方がない。またしても、殺人衝動が込み上げてきた。
こうして、赤松朱里は実に3人もの人間を葬り去った。そして、湯川智昭とミノタウロスの森を後にして無事に生還した。
翌日になって、辺りは大騒ぎとなってしまった。しかしながら、やはり問題ごとは内で済ませてしまいたい大人達は、決して警察を呼ぶことはしなかった。せいぜい、捜索のために消防団が森に入ったくらいだ。
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