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第六章 アリアドネの嘘【現在 七色七奈】
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ミノタウロスがどれほどの相手なのか。中身が赤松朱里であれば、男性である大和田のほうが有利に思えるが、しかしあちらは間違いなく武器を所持しており、こちらの武器よりも強い殺傷能力を持っている。
それに、なによりもミノタウロスには迷いがないだろう。普通、人間というものは、人に対して攻撃を加える際に、多少なりとも遠慮というものをするはずだ。その根底には、もちろん殺してはいけないという道徳的な制約もついている。
殴り合いの喧嘩をする輩でさえ、その中で相手を殺さないように加減し合っているのだ。しかし、ミノタウロスにはきっと、それがない。それこそがミノタウロスの強みだと言えるだろう。人を殺すことに対する抵抗のようなものが一切ないのだ。それは、これまでのビデオテープを見ていても明白。もっとも、それらはきっと演技の上に成り立っているのだろうが。
想像してみればいい。人を殺害するという行為を、年を挟み二度にも渡って実行した人物――その人物に、果たして人間の心というものがあるのか。道徳心というものを持ち合わせているのか。
ビデオテープを隠して回り、私達が奔走しているのを眺めながら、まるで楽しんでいるかのような存在。それが――大和田と私を目の前にして、殺害という行為を放棄するわけがない。
――ただ、私は知りたい。ミノタウロスはどうして私を狙うのか。何がしたくて、こんな回りくどいことまでやったのか。私には知るべき権利があることだろう。
「――分かった。俺はその辺りに隠れて様子を伺うから、できるだけミノタウロスの気を引きつけてくれ」
大和田はそう言うと、山小屋の一角に積まれた資材の裏へと隠れた。掃除がされておらず、また2階への階段がなくなってしまっている山小屋だからこそ、部屋の隅に資材らしきものが積み重ねられていても、さほど気にならないし、目立ちはしない。決して褒められた使い方ではないが、資材を積み重ねたまま山小屋を離れた先駆者に感謝したいところ。
いいや、もしかすると、それをしたのだってミノタウロス自身なのかもしれない。だとしたら、そこはあえて残した隙か。大和田に忠告しようか迷ったのであるが、しかし大和田はすでにそこへと隠れてしまい、そして足音が扉の前までやってきて止まった。
身をかがめながら、山小屋の中央へと移動する。自分が囮になり、そしてミノタウロスの気を引いて、その隙に大和田が奇襲を仕掛ける。机上の空論だが、うまくいって欲しい。
それに、なによりもミノタウロスには迷いがないだろう。普通、人間というものは、人に対して攻撃を加える際に、多少なりとも遠慮というものをするはずだ。その根底には、もちろん殺してはいけないという道徳的な制約もついている。
殴り合いの喧嘩をする輩でさえ、その中で相手を殺さないように加減し合っているのだ。しかし、ミノタウロスにはきっと、それがない。それこそがミノタウロスの強みだと言えるだろう。人を殺すことに対する抵抗のようなものが一切ないのだ。それは、これまでのビデオテープを見ていても明白。もっとも、それらはきっと演技の上に成り立っているのだろうが。
想像してみればいい。人を殺害するという行為を、年を挟み二度にも渡って実行した人物――その人物に、果たして人間の心というものがあるのか。道徳心というものを持ち合わせているのか。
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――ただ、私は知りたい。ミノタウロスはどうして私を狙うのか。何がしたくて、こんな回りくどいことまでやったのか。私には知るべき権利があることだろう。
「――分かった。俺はその辺りに隠れて様子を伺うから、できるだけミノタウロスの気を引きつけてくれ」
大和田はそう言うと、山小屋の一角に積まれた資材の裏へと隠れた。掃除がされておらず、また2階への階段がなくなってしまっている山小屋だからこそ、部屋の隅に資材らしきものが積み重ねられていても、さほど気にならないし、目立ちはしない。決して褒められた使い方ではないが、資材を積み重ねたまま山小屋を離れた先駆者に感謝したいところ。
いいや、もしかすると、それをしたのだってミノタウロス自身なのかもしれない。だとしたら、そこはあえて残した隙か。大和田に忠告しようか迷ったのであるが、しかし大和田はすでにそこへと隠れてしまい、そして足音が扉の前までやってきて止まった。
身をかがめながら、山小屋の中央へと移動する。自分が囮になり、そしてミノタウロスの気を引いて、その隙に大和田が奇襲を仕掛ける。机上の空論だが、うまくいって欲しい。
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