ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第六章 アリアドネの嘘【現在 七色七奈】

第六章 アリアドネの嘘【現在 七色七奈】1

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【1】

 一度終わったのではないかと思わせておきながら、そこから映像がさらに続く作りというのは、一体どんな意図があってのことなのか。ブラックアウトした画面を流すことしばらく、その先に残されていた映像は、湯川視点のものと、そして高田の最後であった。

 お決まりのごとくビデオの最後には、次のビデオテープの場所が映し出される。しかし、今回のはつかみどころのない、実に曖昧な表現だった。

 まず、画面には、奇妙な色をした鳥居と、その先に広がる森が映されていた。大和田に確認するまでもないだろう。おそらく、ミノタウロスの森だ。

 ――次のビデオテープは、ミノタウロスが持っているよ。

 くわえて、画面下に表示されたテロップに、私は思わずぞっとした。私の後ろで画面を見ていた大和田が「こりゃ……いよいよって感じだな」と呟き落とした。

「これ、ミノタウロスの森に来いって意味ですかね――」

 ビデオテープはミノタウロスが持っている。ならば、そのミノタウロスが生息しているであろうミノタウロスの森へと赴かねばならないのだろうか。

「ただ、この時間からは辺りも暗いから危険だ。それに、こんな時間にあの森で待ってる物好きなんていないよ。そもそも、このビデオテープをこちらがいつ見たかなんて、このビデオテープを仕掛けて回っている人間には分からないことだろ?」

 大和田の言っていることはもっともであるが、ここで私はようやく気づいた。だから、このビデオテープは中学校の先生に預けられていたのだ。

「いいえ、もし――あの先生がミノタウロスに連絡したとしたら、おおよそではありますが、私達がビデオを見る時間帯は予測できます」

 かつて赤松朱里の担当だったという先生。彼女がもしミノタウロスと繋がっていたら。いいや、別に彼女がミノタウロス側の人間だとかそういうわけではなく、もし私達が来たら連絡を寄越すように指示されていたとしたら、ある程度私達の行動を予測することはできるのではないだろうか。

「それって、何を意味するか分かって言ってる?」

 私の推測を聞いた大和田が、申し訳なさそうに問うてくる。そんなこと、聞かれなくとも分かっている。すなわち、もしそうであれば、赤松朱里こそがミノタウロスである可能性が高くなる。

「えぇ、ビデオテープを仕掛けて回っているのは赤松朱里で――彼女はミノタウロスの森で待っていることになります」

「ちょっと待ってくれ。彼女がミノタウロスだと考えるには無理があるんじゃないか?」
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