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第五章 時を越えた禁忌【過去 高田富臣】
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このまま森の奥に進んでしまって大丈夫だろうか。ふと、不安に駆られる。自分の判断でここまでやってきたが、冷静になる度に、自分の判断が正しかったのか分からなくなってしまう。
いっそのこと、森の外まで一気に駆け抜けたら――今頃はもう例の農道であり、誰かに助けを呼びに向かえたかもしれない。今さらになって後悔しても遅いが、どれだけ自分が混乱していたのか分かる。
こんな森の奥まできて、しかも明かりがないため、視界も限られている。当たり前だが土地勘などなく、この先どれくらい森が続いているかも分からない。
「武器、武器、武器――あいつとやり合える武器」
こうしている今も、暗闇を切り裂いて斧が振り下ろされそうな気がして怖い。いつどこで、あの化け物がこちらの命を狙っているか、全く分からない。見当がつかない。
こんなことなら、冷静になるべきではなかった。すっかり綺麗になってしまった両手に視線を落とす。少し前までは、手の汚れが気になって仕方がなかった。それゆえに麻痺していた感覚がある。見えないようになっていた部分がある。それがはっきりと見えてしまった今、身動きできなくなっている自分がいた。
進むも地獄、戻るも地獄。どちらにせよ、良い展開は期待できないだろう。ここに留まっていたところで、現状維持にすぎず、事態は悪くなれど絶対に好転はしない。
心のどこかでは森の外に出たいのであろう。ふらふらと歩き続けることしばらく。一度は駆け上ったはずの急斜面まで戻ってきた。
斜面から下を覗いてはみるが、しかし下には誰もいない。誰かいたらいたで問題であるし、ましてやそれがミノタウロスだったら目も当てられないが、とにもかくにも、この辺りにいるのは自分だけ。
急に静寂が恐ろしくなってきた。しつこいほどに斜面の下を確認すると、高田は勢いをつけて一気に斜面を駆け降りた。いや、転げ落ちたといったほうがきっと正しいだろう。せっかく綺麗にした手のひらを地面につきながら、急所である頭を守りながら転げ落ちる。体のいたるところを打ちつけて痛かったが、しかし辛うじて斜面の下まで到着。当たり前だが命はあるらしい。これで命を失っていたら、それこそ笑えなかったことだろう。
「ここまで来たら――後少しだ」
森の外まで後少しではあるが、しかしどうしても足が止まってしまう。この先で高田と由美香は襲われたのである。まだミノタウロスがうろついているかもしれない。
いっそのこと、森の外まで一気に駆け抜けたら――今頃はもう例の農道であり、誰かに助けを呼びに向かえたかもしれない。今さらになって後悔しても遅いが、どれだけ自分が混乱していたのか分かる。
こんな森の奥まできて、しかも明かりがないため、視界も限られている。当たり前だが土地勘などなく、この先どれくらい森が続いているかも分からない。
「武器、武器、武器――あいつとやり合える武器」
こうしている今も、暗闇を切り裂いて斧が振り下ろされそうな気がして怖い。いつどこで、あの化け物がこちらの命を狙っているか、全く分からない。見当がつかない。
こんなことなら、冷静になるべきではなかった。すっかり綺麗になってしまった両手に視線を落とす。少し前までは、手の汚れが気になって仕方がなかった。それゆえに麻痺していた感覚がある。見えないようになっていた部分がある。それがはっきりと見えてしまった今、身動きできなくなっている自分がいた。
進むも地獄、戻るも地獄。どちらにせよ、良い展開は期待できないだろう。ここに留まっていたところで、現状維持にすぎず、事態は悪くなれど絶対に好転はしない。
心のどこかでは森の外に出たいのであろう。ふらふらと歩き続けることしばらく。一度は駆け上ったはずの急斜面まで戻ってきた。
斜面から下を覗いてはみるが、しかし下には誰もいない。誰かいたらいたで問題であるし、ましてやそれがミノタウロスだったら目も当てられないが、とにもかくにも、この辺りにいるのは自分だけ。
急に静寂が恐ろしくなってきた。しつこいほどに斜面の下を確認すると、高田は勢いをつけて一気に斜面を駆け降りた。いや、転げ落ちたといったほうがきっと正しいだろう。せっかく綺麗にした手のひらを地面につきながら、急所である頭を守りながら転げ落ちる。体のいたるところを打ちつけて痛かったが、しかし辛うじて斜面の下まで到着。当たり前だが命はあるらしい。これで命を失っていたら、それこそ笑えなかったことだろう。
「ここまで来たら――後少しだ」
森の外まで後少しではあるが、しかしどうしても足が止まってしまう。この先で高田と由美香は襲われたのである。まだミノタウロスがうろついているかもしれない。
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