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第五章 時を越えた禁忌【現在 七色七奈】
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自分で言っておきながら、しかしうまい具合に飲み込めないのであろう。大和田が面白くなさそうに首を傾げる。
「ただ、それならそれで、事件として俺のところに伝わっていてもいいんだよなぁ。ミノタウロスの森には近づいてはならない――なんて理由もなしに説き伏せるより、過去に事件があったから、それ以来立ち入りができないとか、都合の良い理由づけなんて、いくらでもできたはずなんだ」
大和田は自分のところに話が全く伝わっていなかったのが面白くないらしい。まぁ、引き継ぎをする人間次第であるが、近隣の住民とのコミニケーションのためにも、そんな大事件のことを黙っておく必要がない。
「――おそらくですが、なかったことにされている可能性は高いと思います。あの、こんなことを言ってしまうと、なおさらに大和田さんの立場が悪くなるというか、ここに居づらくなるかもしれないんですが」
頭に浮かんだひとつの可能性を、私は辛うじて飲み込んだ。そのまま口に出さずにワンテンポ待てたことは、自分で自分を褒めてやりたいくらいだ。
「ここまで来たら、どんなことを言われても動じないよ。どうぞ――」
アルコールが回ってきたのだろうか。ほんの少しばかり投げやりな様子の大和田。私は小さく頷くと、湯川についての推測を披露した。もしかすると、そんなもの、とっくの昔に大和田は気づいていたのかもしれないが。
「湯川は口封じのために、誰かに殺されたということは考えられませんか?」
湯川は私達に当時のことを話してくれる約束をした。それをうっかりと第三者に話してしまったのではないか。そして、その第三者に殺されてしまった。
「――誰かって。誰に?」
大和田の冷静な一言に、私は自分で都合の良い推測をしていたことに気づく。大和田の視点から見れば、私の推測は都合が良すぎるのかもしれない。
「湯川さんが、過去のことを私達に話すと都合が悪くなる人です」
想像上では、その答えに簡単にたどり着けた。しかしながら、そもそも湯川が過去のことを私達に話すと知っていた人間がどれだけいただろうか。分かりきっていたところに、大和田からも同じ指摘が飛ぶ。
「その事実を知っていた人間って、かなり絞られてくると思うんだ。むしろ、それって君か俺くらいしかいないんじゃない?」
全くもってその通り。湯川が外部に情報を漏らしでもしない限り、その事実を知るのは私と大和田のみいうことになる。都合良く、湯川が他の第三者にでも話さない限り。
「ただ、それならそれで、事件として俺のところに伝わっていてもいいんだよなぁ。ミノタウロスの森には近づいてはならない――なんて理由もなしに説き伏せるより、過去に事件があったから、それ以来立ち入りができないとか、都合の良い理由づけなんて、いくらでもできたはずなんだ」
大和田は自分のところに話が全く伝わっていなかったのが面白くないらしい。まぁ、引き継ぎをする人間次第であるが、近隣の住民とのコミニケーションのためにも、そんな大事件のことを黙っておく必要がない。
「――おそらくですが、なかったことにされている可能性は高いと思います。あの、こんなことを言ってしまうと、なおさらに大和田さんの立場が悪くなるというか、ここに居づらくなるかもしれないんですが」
頭に浮かんだひとつの可能性を、私は辛うじて飲み込んだ。そのまま口に出さずにワンテンポ待てたことは、自分で自分を褒めてやりたいくらいだ。
「ここまで来たら、どんなことを言われても動じないよ。どうぞ――」
アルコールが回ってきたのだろうか。ほんの少しばかり投げやりな様子の大和田。私は小さく頷くと、湯川についての推測を披露した。もしかすると、そんなもの、とっくの昔に大和田は気づいていたのかもしれないが。
「湯川は口封じのために、誰かに殺されたということは考えられませんか?」
湯川は私達に当時のことを話してくれる約束をした。それをうっかりと第三者に話してしまったのではないか。そして、その第三者に殺されてしまった。
「――誰かって。誰に?」
大和田の冷静な一言に、私は自分で都合の良い推測をしていたことに気づく。大和田の視点から見れば、私の推測は都合が良すぎるのかもしれない。
「湯川さんが、過去のことを私達に話すと都合が悪くなる人です」
想像上では、その答えに簡単にたどり着けた。しかしながら、そもそも湯川が過去のことを私達に話すと知っていた人間がどれだけいただろうか。分かりきっていたところに、大和田からも同じ指摘が飛ぶ。
「その事実を知っていた人間って、かなり絞られてくると思うんだ。むしろ、それって君か俺くらいしかいないんじゃない?」
全くもってその通り。湯川が外部に情報を漏らしでもしない限り、その事実を知るのは私と大和田のみいうことになる。都合良く、湯川が他の第三者にでも話さない限り。
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