ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第四章 ミノタウロスはいる【過去 赤松朱里】

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 どうやら、湯川もその状況は避けたいらしい。これ以上、被害が広がってしまったら意味がないように思えるのであるが、流れとしては湯川が今後どう出るのか、お手並みを拝見したいところだ。ただ、彼は堅実だから、あっさりと大人に助けを求めてしまいそうだが。

 湯川と夏帆に続いて山小屋の中へと入る。外から見た感じだと2階建てのように見えたのであるが、中は思っている以上に荒れ果てており、おそらく2階へと続くであろう階段のほうは、途中で朽ち果ててしまっているようだ。すなわち、2階はあるものの、物理的にのぼることができない――それが現状だった。

「それじゃあ、現状をざっと洗い流してみよう」

 湯川はそう言うと、様々なものが散乱している机の上のものを床へと落としてスペースを作る。代わりに置かれたのは、紙の上にマジックを走らせたかのような簡易的な地図だった。

「俺達より前に、ここに来たことがある人達がいたんだろう。ご丁寧に、ここまでの地図を書き残してくれていた。せっかくだから、こいつを流用させてもらう」

 先にここへと訪れた時に見つけたのであろう。手書きの地図は、確かにこれまでの道程をしっかりと記していた。それに加えて、ここから先のことも、ほんの少しではあるが書き残してくれていたらしい。

「まず、気をつけないといけないのが、この渓流だ。地図を見る限り、どうやら橋はかかっていないらしい」

 湯川が目をつけたのは、このまま道なりに、山肌に沿って進んだルートだった。その先には川のようなものが描かれており、ご丁寧に【渡る手段はなし】とまで書き足されている。どんな人が書き残してくれたのか気になるところだが、おそらくはかなり几帳面なタイプなのであろう。文字の細かさが、それを物語っているような気がする。

「となると、このまま山の頂上に向かうルートが安全ってことになる?」

 湯川は夏帆の言葉に頷く。

「あぁ、ルートとして考えるのであればな。ただ、道なりに進むのだとすれば、他の連中は渓流のほうに向かった可能性が高い。ここに足を踏み入れた様子がないのならなおさらだ」

 朱里は地図をズームアップしてカメラに映す。

「だったら、ここで待っていれば、じきに戻ってくるんじゃない?」

 渓流に橋はかかっておらず、すなわちそこから先には向かえない。となれば、先行した別働隊も道を引き返すことになるだろう。

「いや、辺りは暗いし、渓流の深さがどれだけあるのかも分からない。下手すると強行突破しようとするかもしれない」
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