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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】
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あれは仕方がなかった。警察官とて人間であり、誰しもが強いわけではない。あのような場面に遭遇してしまえば、まず間違いなくほとんどの人が、大和田と同じ反応を見せたはず。あえて私は言葉にせず、首を大きく横に振るだけで大和田に答えた。
「言われてみれば、確かにそうだ。ビデオテープの中じゃ、もう何人か死んだような描写をされている人物がいる。それに、湯川本人も大切な人を亡くしてしまったと証言していたんだ。つまり、過去にあのミノタウロスの森では、確実に何かが起きたはずなんだ」
まるで自分に言い聞かせ、自らかを奮い立たせているかのようだった。大和田はさらに続ける。
「でも、実際に何かがミノタウロスの森で起きたとするなら、ここに着任する時に、前任者から何かしらの形で触れられていたはず。でも、そんなことはなく、引き継ぎも業務的なものばかりで終わった――」
自分の口で言葉にすることで、状況の整理もしているのであろう。それに私は手を貸すつもりで口を開いた。
「もちろん、事が公になっていれば、過去の新聞なんかにも載っているはずです。もし、それらしき情報がなかったとしたら――」
ここで私と大和田の言葉が見事にハモった。
「揉み消しがあったということになる」
あくまでも私達の想像でしかない。想像でしかないが、湯川の現場にいた人達は、それを連想させるだけの不審な動きを見せたのだ。そう――警察の介入を露骨に拒むという、常識からは考えられないことを。
「とにかく、明日になったら図書館に案内してください。今日はもう時間が時間ですし、閉館しているでしょうから」
本音を言うのであれば、今すぐにでも図書館へと調べに行きたい。しかし、おそらく閉館しているだろうし、自分で思っているよりも体は疲労を感じているようだ。それは大和田も同じことだろう。
「分かった。ビデオテープの確認もあるし、ネットなんかでも過去の出来事を調べてみたい。今日はもう、そっちのほうに時間をあてよう」
私が頷くと、まるでその動きに合わせたかのように、腹の虫が鳴いた。それを見た大和田は笑みを浮かべる。
「ちょっと早いけど夕飯にするか。今からコンビニまで車を走らせるのも面倒だろうし、なんか適当に家から持ってくるよ」
大和田はそう言うと、駐在所の奥へと引っ込んだ。
無意識のうちに、ずっと気を張っていたのだろう。ソファーに腰を降ろすと、大きく溜め息を漏らす。
――そして私は四本目のビデオテープに手を伸ばした。
「言われてみれば、確かにそうだ。ビデオテープの中じゃ、もう何人か死んだような描写をされている人物がいる。それに、湯川本人も大切な人を亡くしてしまったと証言していたんだ。つまり、過去にあのミノタウロスの森では、確実に何かが起きたはずなんだ」
まるで自分に言い聞かせ、自らかを奮い立たせているかのようだった。大和田はさらに続ける。
「でも、実際に何かがミノタウロスの森で起きたとするなら、ここに着任する時に、前任者から何かしらの形で触れられていたはず。でも、そんなことはなく、引き継ぎも業務的なものばかりで終わった――」
自分の口で言葉にすることで、状況の整理もしているのであろう。それに私は手を貸すつもりで口を開いた。
「もちろん、事が公になっていれば、過去の新聞なんかにも載っているはずです。もし、それらしき情報がなかったとしたら――」
ここで私と大和田の言葉が見事にハモった。
「揉み消しがあったということになる」
あくまでも私達の想像でしかない。想像でしかないが、湯川の現場にいた人達は、それを連想させるだけの不審な動きを見せたのだ。そう――警察の介入を露骨に拒むという、常識からは考えられないことを。
「とにかく、明日になったら図書館に案内してください。今日はもう時間が時間ですし、閉館しているでしょうから」
本音を言うのであれば、今すぐにでも図書館へと調べに行きたい。しかし、おそらく閉館しているだろうし、自分で思っているよりも体は疲労を感じているようだ。それは大和田も同じことだろう。
「分かった。ビデオテープの確認もあるし、ネットなんかでも過去の出来事を調べてみたい。今日はもう、そっちのほうに時間をあてよう」
私が頷くと、まるでその動きに合わせたかのように、腹の虫が鳴いた。それを見た大和田は笑みを浮かべる。
「ちょっと早いけど夕飯にするか。今からコンビニまで車を走らせるのも面倒だろうし、なんか適当に家から持ってくるよ」
大和田はそう言うと、駐在所の奥へと引っ込んだ。
無意識のうちに、ずっと気を張っていたのだろう。ソファーに腰を降ろすと、大きく溜め息を漏らす。
――そして私は四本目のビデオテープに手を伸ばした。
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