ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】

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 それが一体何を意味しているのか。つまり、ここは田舎だから、事件も起きないのではない。田舎だからこそ、過去にも揉み消しがあったのではないか。

 そう考えないと、辻褄が合わない。湯川はかつてミノタウロスの森で大切な人を失ったと言っていた。それに、例のビデオテープから察するに、犠牲になったのはおそらく1人だけではない。

 それなのに、少なくとも大和田はその事実を知らないわけだ。もし、仮にミノタウロスの森で事件らしきものが起きていれば、前任者から引き継ぎくらいあったはず。あの森は、この辺りに人達からすると忌避すべき存在であるから、前任者もまるで知らんぷりということはしないだろう。仮にそれがあるとすれば――すでに圧力をかけられていた場合だ。

「明日、そこに向かいましょう。もしかすると、今日みたいなことが――地域住民と、当時の駐在の間であったのかもしれません」

「いや、さすがにそんなことが……」

 大和田は否定的な言葉を口にしたが、はたと我に返ったかのごとく「いや、充分にあり得るか」と訂正した。ついさっき、大和田自身が権力に負けたではないか。

「それにしても、大将亭の若――湯川はどうしてあんなことをしたんだ?」

 まるで自分の失態をごまかすかのごとく呟いた大和田。あの様子から察するに――。

「自殺の線が強いと思います。でも、どうしてこのタイミングで? それに、わざわざミノタウロスの森に向かう必要なんてなかったはずです」

 ぱっと現場を見ただけだが、印象としては自殺の色が濃いように見えた。しかしながら、なぜこのタイミングで湯川は自殺などしたのだろうか。

「――こうは考えられないか? 湯川は過去のことを俺達に話そうとしてくれた。でも、そうなると不都合なことになってしまう何者かがいたんだ。だから、その何者かが口封じのために湯川を殺害したのかもしれない」

 それは絵空事だった。普通に考えて、まずそんなことはあり得ないだろう。けれども、そう考えるとと同時に、背筋が冷たくなったのも事実だ。

 そもそも――この辺りの権力者が周囲を仕切ってまで、自殺体を警察の介入なしに片付けたりするだろうか。

「いや、でもそんなまさか……」

 私は自分の中で生まれつつある疑惑を否定するかのごとく、やや大袈裟につぶやいてみせる。

「あれが、普通の自殺だったとしたら、そのまま警察に届ければいいと思うのは俺だけだろうか。さっきみたいに警察の介入を権力で拒んだ理由は――当たり前だけど、警察が介入すると不都合だったからだ」
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