ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】

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「――え?」

 当事者ではなく、あくまでも協力者という立場の大和田だからこそ、そんな素っ頓狂な声を上げることができたのだと思う。

「……これが何を意味しているのかは、本人に聞いても教えてもらえなかった。あの子、ここに通っていた時と変わらない笑顔を浮かべて――しかも、満面の笑みで、それだけ言って去って行ったんです」

 瀬川先生の指先は明らかに震えていた。そして、私の手足もまた、その得体の知れない悪意に震え始めた。

「絶対に許さない――こんなことを聞くのは申し訳ないと思うんだけど、何か心当たりは?」

 大和田に問われるが、しかし私はただ首を横に振ることしかできなかった。

 小学生の頃、多少なりともおかしいなとは思いながらも、赤松朱里と普通の友達付き合いをしてきた私。あの頃から、クラスの一部の子は、彼女のことを訝しむような接し方をしていたような気がする。

「むしろ、他の子よりも遊んでいたような気がするし、感謝はされても、恨まれるようなことはなかったと思う」

 私はあの時、赤松朱里が他の子達と少し違うことに気づいていたと思う。だから、彼女には自然と優しくしようと思ったし、子ども心ながらに、守ってあげなければならない――みたいな使命感のようなものもあった。

「とにかく、これ――預かってもいいですか?」

 赤松朱里が残した伝言の内容はともかく、目的はビデオテープである。多少なりとも伝言の内容にショックを受けている私をよそに、大和田が冷静に瀬川先生からビデオテープを受け取った。

「あの、もし良かったら、これ……私の連絡先です」

 大和田にビデオテープを渡した瀬川先生が、私のほうに向かって名刺を差し出してきた。私は顔をあげると、名刺返しをする。

「ありがとうございます」

 私がぽつりと漏らすと、瀬川先生は「いえいえ、私――当時は彼女の担任でしたから」と一言。思わず大和田が立ち上がる。

「その話、もう少し詳しく教えていただけませんか?」

 赤松朱里を巡るビデオテープには、彼女以外の登場人物が数多く登場している。その年齢は、おそらく中学生から高校生くらいだ。ならば、もしかすると他の人間についても、瀬川先生は知っているかもしれない。

 本当ならばビデオテープを手に入れて終わりだったはずなのに、思いもかけず赤松朱里の担任と接触することができた。もはや、奇跡としか言いようがない。

 話は基本的に大和田が主導ですすめてくれた。
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