98 / 203
第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】
19
しおりを挟む
「私と同じ――ってことですよね? 正直、彼女は悪い意味でクラスで目立っていました。問題児……というわけではないのですが、中学生にしては幼い感じがして」
瀬川先生の言葉に頷ける点がいくつかあった。赤松朱里は、いつも無邪気に振る舞い、常に独特の雰囲気をまとっていた。周りが成長するにつれて、彼女だけが取り残されているような気がしたのも確かである。もし、私が小学校4年生以降も彼女と一緒にいたのならば、その幼さに確信を持てていたのかもしれない。
「良くも悪くも純粋で、何事にも積極的なのですが、その――今の言い方で例えると、その場の空気がまるで読めないんです。もちろん、それを個性として捉えてくれる生徒もいましたけど、大半の生徒が彼女のことを疎んでいたと思います」
ビデオテープの話を聞きにきたはずなのに、思いがけない情報が提供される。確か、ビデオテープの中でも――高田富臣のグループからは疎まれていたはず。そのような空気を出しているにも関わらず、それが読めない彼女は普段通りに振る舞うし、いつも通りに関わろうとする。だから、なおさらに疎まれる。
「私も小学校4年生までは彼女と一緒でしたし、そのお話を聞いていて、もしかしたら……と思うことがあります」
大和田も私と同意見なのか、私の言葉に合わせて相槌を打つ。
「昔は今ほど表沙汰にならなかった――と言うべきでしょうか。さほど問題視もされていなかったのでしょう」
発達障害。今思えば、彼女にはその節があったのではないだろうか。一緒にいる時は、少し変わった子だな――程度にしか思っていなかったし、その頃はまだ、今ほど発達障害が取り沙汰されることもなかった。
「多分、その赤松朱里って子は発達障害だったのかも。まぁ、医者じゃないから分からないけど」
あえて私と瀬川先生がオブラートに包んできたものを、一気に破ってぶちまけてしまう大和田。
「その可能性は充分にあると思います。彼女もきっと、相当に生きづらかったのでしょう。当時、いじめとまでは認められないものの、一部彼女に冷たくあたる生徒もいましたから」
これまで濁してきた言葉をダイレクトに使われてしまったら、こちらも遠慮する必要ない。瀬川先生も同様らしく、当時のことを包み隠さない感じで話し始めた。
「小学校の頃は、周囲とはうまくやっていたものの、やっぱり一緒にいると首を傾げるような行動が目立っていたように思えます」
杉谷の神社で無邪気に遊んでいた彼女を思い出す。彼女には、恐怖という感情がなかったのではないか――。
瀬川先生の言葉に頷ける点がいくつかあった。赤松朱里は、いつも無邪気に振る舞い、常に独特の雰囲気をまとっていた。周りが成長するにつれて、彼女だけが取り残されているような気がしたのも確かである。もし、私が小学校4年生以降も彼女と一緒にいたのならば、その幼さに確信を持てていたのかもしれない。
「良くも悪くも純粋で、何事にも積極的なのですが、その――今の言い方で例えると、その場の空気がまるで読めないんです。もちろん、それを個性として捉えてくれる生徒もいましたけど、大半の生徒が彼女のことを疎んでいたと思います」
ビデオテープの話を聞きにきたはずなのに、思いがけない情報が提供される。確か、ビデオテープの中でも――高田富臣のグループからは疎まれていたはず。そのような空気を出しているにも関わらず、それが読めない彼女は普段通りに振る舞うし、いつも通りに関わろうとする。だから、なおさらに疎まれる。
「私も小学校4年生までは彼女と一緒でしたし、そのお話を聞いていて、もしかしたら……と思うことがあります」
大和田も私と同意見なのか、私の言葉に合わせて相槌を打つ。
「昔は今ほど表沙汰にならなかった――と言うべきでしょうか。さほど問題視もされていなかったのでしょう」
発達障害。今思えば、彼女にはその節があったのではないだろうか。一緒にいる時は、少し変わった子だな――程度にしか思っていなかったし、その頃はまだ、今ほど発達障害が取り沙汰されることもなかった。
「多分、その赤松朱里って子は発達障害だったのかも。まぁ、医者じゃないから分からないけど」
あえて私と瀬川先生がオブラートに包んできたものを、一気に破ってぶちまけてしまう大和田。
「その可能性は充分にあると思います。彼女もきっと、相当に生きづらかったのでしょう。当時、いじめとまでは認められないものの、一部彼女に冷たくあたる生徒もいましたから」
これまで濁してきた言葉をダイレクトに使われてしまったら、こちらも遠慮する必要ない。瀬川先生も同様らしく、当時のことを包み隠さない感じで話し始めた。
「小学校の頃は、周囲とはうまくやっていたものの、やっぱり一緒にいると首を傾げるような行動が目立っていたように思えます」
杉谷の神社で無邪気に遊んでいた彼女を思い出す。彼女には、恐怖という感情がなかったのではないか――。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
幾度繰り返そうとも、匣庭は――。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。
舞台は繰り返す。
三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。
変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。
科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。
人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。
信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。
鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。
手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる