ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】

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「私と同じ――ってことですよね? 正直、彼女は悪い意味でクラスで目立っていました。問題児……というわけではないのですが、中学生にしては幼い感じがして」

 瀬川先生の言葉に頷ける点がいくつかあった。赤松朱里は、いつも無邪気に振る舞い、常に独特の雰囲気をまとっていた。周りが成長するにつれて、彼女だけが取り残されているような気がしたのも確かである。もし、私が小学校4年生以降も彼女と一緒にいたのならば、その幼さに確信を持てていたのかもしれない。

「良くも悪くも純粋で、何事にも積極的なのですが、その――今の言い方で例えると、その場の空気がまるで読めないんです。もちろん、それを個性として捉えてくれる生徒もいましたけど、大半の生徒が彼女のことを疎んでいたと思います」

 ビデオテープの話を聞きにきたはずなのに、思いがけない情報が提供される。確か、ビデオテープの中でも――高田富臣のグループからは疎まれていたはず。そのような空気を出しているにも関わらず、それが読めない彼女は普段通りに振る舞うし、いつも通りに関わろうとする。だから、なおさらに疎まれる。

「私も小学校4年生までは彼女と一緒でしたし、そのお話を聞いていて、もしかしたら……と思うことがあります」

 大和田も私と同意見なのか、私の言葉に合わせて相槌を打つ。

「昔は今ほど表沙汰にならなかった――と言うべきでしょうか。さほど問題視もされていなかったのでしょう」

 発達障害。今思えば、彼女にはその節があったのではないだろうか。一緒にいる時は、少し変わった子だな――程度にしか思っていなかったし、その頃はまだ、今ほど発達障害が取り沙汰されることもなかった。

「多分、その赤松朱里って子は発達障害だったのかも。まぁ、医者じゃないから分からないけど」

 あえて私と瀬川先生がオブラートに包んできたものを、一気に破ってぶちまけてしまう大和田。

「その可能性は充分にあると思います。彼女もきっと、相当に生きづらかったのでしょう。当時、いじめとまでは認められないものの、一部彼女に冷たくあたる生徒もいましたから」

 これまで濁してきた言葉をダイレクトに使われてしまったら、こちらも遠慮する必要ない。瀬川先生も同様らしく、当時のことを包み隠さない感じで話し始めた。

「小学校の頃は、周囲とはうまくやっていたものの、やっぱり一緒にいると首を傾げるような行動が目立っていたように思えます」

 杉谷の神社で無邪気に遊んでいた彼女を思い出す。彼女には、恐怖という感情がなかったのではないか――。
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