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第三章 惨殺による惨殺【過去 赤松朱里】
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始まりの広場と名付けられた場所から、さらに山肌のほう――すなわち、奥の方へと向かって歩き始める。広場を抜けると、また道幅が狭くなり、しかも斜面になる。基本的に山肌に沿って形成されている地形だろうから、当然と言えば当然であろう。
「それにしても凄い森だな。入ってからまともに空が見えていないぞ」
先頭の湯川が呟く。この森は背の高い木々が、その葉を広げているため、空が綺麗に覆い隠されている。もちろん、葉の隙間から空が見えることもあるのだが、それもほんの少しだ。きっと昼間でも薄暗いのであろう。
「なんか外にいるって感じがしないよね。いや、外にいることはいるんだけど――なんというか」
「飲み込まれちゃったみたいな感じだよね」
夏帆がどう例えようか迷っているようだったから、それに朱里は付け足してやった。そうだ。このミノタウロスの森は、生き物の腹の中。飲み込んでしまった人間を二度と外には出さない腹の中だ。
「――そう考えると怖いから、あえて他の表現を探していたのに」
どうやら、夏帆も同じようなことを真っ先に考えついていたのだろう。しかし、夏帆はそこで改めて言葉を選ぼうとしたようだった。例えとしては間違っていないし、的確な表現だと思うのだが。
湯川の持っている懐中電灯の明かりが、急な斜面を映し出す。
「ここから変に急斜面になるのか。のぼれないことはないだろうが――赤松と夏帆は大丈夫か?」
斜面が急になっているとはいえ、足を踏ん張りつつ前に体重をかければのぼれる程度の斜面である。懐中電灯やビデオカメラを持っていても、問題なくのぼることができるだろう。
「ちょっと待って。カメラを持ち直すから」
朱里はそう断ってカメラを持ち直す。足元に気を取られて、うっかりカメラを落としてしまわぬように、しっかりとカメラを持っておく必要があった。
「これくらいなら心配ないと思う」
背後から夏帆の声が聞こえてくる。目測でも、急斜面をのぼれると判断したのであろう。夏帆はそれなりに動きやすい格好できているようだし、多分大丈夫だ。
「よし、それじゃ先に俺が行く。赤松と夏帆はここで待っていてくれ」
急斜面はそこまで広くはない。もし、先頭の湯川がバランスを崩してしまったら、後に続く朱里と夏帆を巻き込んでしまうおそれがある。そのような事態を回避するため、まずは湯川が単独で斜面をのぼるつもりなのであろう。
「それにしても凄い森だな。入ってからまともに空が見えていないぞ」
先頭の湯川が呟く。この森は背の高い木々が、その葉を広げているため、空が綺麗に覆い隠されている。もちろん、葉の隙間から空が見えることもあるのだが、それもほんの少しだ。きっと昼間でも薄暗いのであろう。
「なんか外にいるって感じがしないよね。いや、外にいることはいるんだけど――なんというか」
「飲み込まれちゃったみたいな感じだよね」
夏帆がどう例えようか迷っているようだったから、それに朱里は付け足してやった。そうだ。このミノタウロスの森は、生き物の腹の中。飲み込んでしまった人間を二度と外には出さない腹の中だ。
「――そう考えると怖いから、あえて他の表現を探していたのに」
どうやら、夏帆も同じようなことを真っ先に考えついていたのだろう。しかし、夏帆はそこで改めて言葉を選ぼうとしたようだった。例えとしては間違っていないし、的確な表現だと思うのだが。
湯川の持っている懐中電灯の明かりが、急な斜面を映し出す。
「ここから変に急斜面になるのか。のぼれないことはないだろうが――赤松と夏帆は大丈夫か?」
斜面が急になっているとはいえ、足を踏ん張りつつ前に体重をかければのぼれる程度の斜面である。懐中電灯やビデオカメラを持っていても、問題なくのぼることができるだろう。
「ちょっと待って。カメラを持ち直すから」
朱里はそう断ってカメラを持ち直す。足元に気を取られて、うっかりカメラを落としてしまわぬように、しっかりとカメラを持っておく必要があった。
「これくらいなら心配ないと思う」
背後から夏帆の声が聞こえてくる。目測でも、急斜面をのぼれると判断したのであろう。夏帆はそれなりに動きやすい格好できているようだし、多分大丈夫だ。
「よし、それじゃ先に俺が行く。赤松と夏帆はここで待っていてくれ」
急斜面はそこまで広くはない。もし、先頭の湯川がバランスを崩してしまったら、後に続く朱里と夏帆を巻き込んでしまうおそれがある。そのような事態を回避するため、まずは湯川が単独で斜面をのぼるつもりなのであろう。
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