68 / 203
第三章 惨殺による惨殺【過去 湯川智昭】
第三章 惨殺による惨殺【過去 湯川智昭】1
しおりを挟む
【1】
「いや、思ったより遅くなったな」
湯川智昭は、ミノタウロスの森の鳥居を見上げて呟く。
「というか、少し集合時間に遅れただけなのに、置いて行くとかあり得なくない?」
丸山夏帆が呟いた。湯川と夏帆は家が隣同士の超腐れ縁。幼馴染というのでさえ、はばかられるほど気の知れた相手だった。よく、テレビドラマなどで幼馴染同士がくっつく展開があるが、あれは絶対にあり得ないものだと湯川は思っている。小さい頃から互いに知っていて、しかも家族ぐるみで付き合いがあるのだ。そんな相手が恋愛対象になることはない。それは夏帆とて同じようで、互いに異性として見ていない。
「まぁ、遅れた俺達が悪い。お前が準備に手間取ったからだぞ」
一応、両親には友人達と花火をする――という名目で家を出てきている。お互いにお目付役となる幼馴染の存在があるだけで、両親はほとんど疑わずに外出を許可してくれるのであるが、さすがにミノタウロスの森が行き先だと知ったら止められるだろう。
「私だって女なんだから、化粧くらいしてもいいでしょうよ」
「いやいや、街に遊びに出るんじゃなくて、ミノタウロスの森に行くだけだぞ。お互いの顔なんて、暗くて見えたもんじゃないさ」
どちらかというと湯川は時間に厳しいタイプだった。時間通りに動けないと、イライラしてしまうことがあるくらいだ。一方、夏帆はマイペースであり、時間にもかなりルーズだ。それゆえに、湯川は夏帆がマイペースであるという事実さえスケジュールに組み込むという特技があった。つまり、彼女が時間をある程度ロスしてしまうことを前提に動くわけだ。しかしながら、今日ばかりは読みが大きく外れてしまった。
「そんなこと言わないでよ。これでも、かなり苦労したんだから」
夏帆の壮大なる努力も、しかし残念ながら空振りに終わっている。なぜなら、出発してから彼女の顔を見たのは、そもそも異性としての対象から外れてしまっている湯川だけなのだから。
「――というか、確かに遅れたことは認める。だが、夏帆の言う通り、ほんの数分なんだよなぁ。待っていてくれても良さそうなものなのに」
公民館での集合時間には遅れてしまったが、正直なところ誤差の範囲――だと湯川は思う。むろん、時間に厳しい湯川からすればアウトになる部類の遅刻であるが、しかしいつものメンバーなら許容できた遅れのはず。
「まぁ、先に入っちゃったんだろうなぁ。さっき、自転車が停めてあったの見たし」
「いや、思ったより遅くなったな」
湯川智昭は、ミノタウロスの森の鳥居を見上げて呟く。
「というか、少し集合時間に遅れただけなのに、置いて行くとかあり得なくない?」
丸山夏帆が呟いた。湯川と夏帆は家が隣同士の超腐れ縁。幼馴染というのでさえ、はばかられるほど気の知れた相手だった。よく、テレビドラマなどで幼馴染同士がくっつく展開があるが、あれは絶対にあり得ないものだと湯川は思っている。小さい頃から互いに知っていて、しかも家族ぐるみで付き合いがあるのだ。そんな相手が恋愛対象になることはない。それは夏帆とて同じようで、互いに異性として見ていない。
「まぁ、遅れた俺達が悪い。お前が準備に手間取ったからだぞ」
一応、両親には友人達と花火をする――という名目で家を出てきている。お互いにお目付役となる幼馴染の存在があるだけで、両親はほとんど疑わずに外出を許可してくれるのであるが、さすがにミノタウロスの森が行き先だと知ったら止められるだろう。
「私だって女なんだから、化粧くらいしてもいいでしょうよ」
「いやいや、街に遊びに出るんじゃなくて、ミノタウロスの森に行くだけだぞ。お互いの顔なんて、暗くて見えたもんじゃないさ」
どちらかというと湯川は時間に厳しいタイプだった。時間通りに動けないと、イライラしてしまうことがあるくらいだ。一方、夏帆はマイペースであり、時間にもかなりルーズだ。それゆえに、湯川は夏帆がマイペースであるという事実さえスケジュールに組み込むという特技があった。つまり、彼女が時間をある程度ロスしてしまうことを前提に動くわけだ。しかしながら、今日ばかりは読みが大きく外れてしまった。
「そんなこと言わないでよ。これでも、かなり苦労したんだから」
夏帆の壮大なる努力も、しかし残念ながら空振りに終わっている。なぜなら、出発してから彼女の顔を見たのは、そもそも異性としての対象から外れてしまっている湯川だけなのだから。
「――というか、確かに遅れたことは認める。だが、夏帆の言う通り、ほんの数分なんだよなぁ。待っていてくれても良さそうなものなのに」
公民館での集合時間には遅れてしまったが、正直なところ誤差の範囲――だと湯川は思う。むろん、時間に厳しい湯川からすればアウトになる部類の遅刻であるが、しかしいつものメンバーなら許容できた遅れのはず。
「まぁ、先に入っちゃったんだろうなぁ。さっき、自転車が停めてあったの見たし」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説



セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ミス研喫茶の秘密(雨音 れいす) ― 5分間ミステリバックナンバーVol.1 ―
筑波大学ミステリー研究会
ミステリー
【バックナンバーは、どの作品からでも問題なく読めます】
とある大学の学園祭を訪れた「私」は、ミステリー研究会が出店する喫茶店を訪れる。
穏やかな時間を楽しむ「私」だったが、喫茶店について、ある違和感を拭えずにいた。
その違和感とは一体――?
-----------------
筑波大学学園祭「雙峰祭」にて、筑波大学ミステリー研究会が出店する喫茶店で、毎年出題しているミステリクイズ、「5分間ミステリ」のバックナンバーです。解答編は、問題編公開の翌日に公開されます。
5分間と書いていますが、時間制限はありません。
Vol.1は、2016年に出題された問題。
問題文をよく読んで、あまり深く考えないで答えてみてください。
なお、実際の喫茶店は、もっと賑わっておりますので、ご安心ください。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる