ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第三章 惨殺による惨殺【過去 湯川智昭】

第三章 惨殺による惨殺【過去 湯川智昭】1

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【1】

「いや、思ったより遅くなったな」

 湯川智昭ゆかわともあきは、ミノタウロスの森の鳥居を見上げて呟く。

「というか、少し集合時間に遅れただけなのに、置いて行くとかあり得なくない?」

 丸山夏帆まるやまかほが呟いた。湯川と夏帆は家が隣同士の超腐れ縁。幼馴染というのでさえ、はばかられるほど気の知れた相手だった。よく、テレビドラマなどで幼馴染同士がくっつく展開があるが、あれは絶対にあり得ないものだと湯川は思っている。小さい頃から互いに知っていて、しかも家族ぐるみで付き合いがあるのだ。そんな相手が恋愛対象になることはない。それは夏帆とて同じようで、互いに異性として見ていない。

「まぁ、遅れた俺達が悪い。お前が準備に手間取ったからだぞ」

 一応、両親には友人達と花火をする――という名目で家を出てきている。お互いにお目付役となる幼馴染の存在があるだけで、両親はほとんど疑わずに外出を許可してくれるのであるが、さすがにミノタウロスの森が行き先だと知ったら止められるだろう。

「私だって女なんだから、化粧くらいしてもいいでしょうよ」

「いやいや、街に遊びに出るんじゃなくて、ミノタウロスの森に行くだけだぞ。お互いの顔なんて、暗くて見えたもんじゃないさ」

 どちらかというと湯川は時間に厳しいタイプだった。時間通りに動けないと、イライラしてしまうことがあるくらいだ。一方、夏帆はマイペースであり、時間にもかなりルーズだ。それゆえに、湯川は夏帆がマイペースであるという事実さえスケジュールに組み込むという特技があった。つまり、彼女が時間をある程度ロスしてしまうことを前提に動くわけだ。しかしながら、今日ばかりは読みが大きく外れてしまった。

「そんなこと言わないでよ。これでも、かなり苦労したんだから」

 夏帆の壮大なる努力も、しかし残念ながら空振りに終わっている。なぜなら、出発してから彼女の顔を見たのは、そもそも異性としての対象から外れてしまっている湯川だけなのだから。

「――というか、確かに遅れたことは認める。だが、夏帆の言う通り、ほんの数分なんだよなぁ。待っていてくれても良さそうなものなのに」

 公民館での集合時間には遅れてしまったが、正直なところ誤差の範囲――だと湯川は思う。むろん、時間に厳しい湯川からすればアウトになる部類の遅刻であるが、しかしいつものメンバーなら許容できた遅れのはず。

「まぁ、先に入っちゃったんだろうなぁ。さっき、自転車が停めてあったの見たし」
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