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第三章 惨殺による惨殺【過去 高田富臣】
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ミノタウロスの森。そこで起きた話というのは、言わば高田達にとってお伽話レベルのものである。迷信という色合いも強いが、どこか現実とかけ離れたところにある。そこに鏑木の余計な補足が入る。本能的に抱いている恐怖の部分に、裏付けのある恐怖が混じったら、どうなるかくらい分かるだろうに。
すでに踏み入れてしまっていた足を、引っ込めてやろうと思った。今ならば引き返せる。まだ体の半身ほどが鳥居をくぐっただけなのだから。しかし、物理的に引き返せても、心理的に引き返すことなんてできない。自然と鏑木が提案した通りの隊形になっているし、ここで引き返してしまうのは、あまりにもダサい。ダサすぎる。
「はぁ? そんな話、大抵が作り話だろ?」
もう一歩目を踏み出してしまった手前、後ろに退くわけにはいかなった高田。さらにもう一歩前に踏み出しつつも、鏑木の言葉を鼻で笑ってやった。強がりなのは分かっている。
「いや、少なくとも新聞に載った事件もあったみたいだぞ。俺達が産まれる少し前の記事だったけど、ミノタウロスの森のことを聞きつけた、都会のミステリ研究会のメンバーだかが、ミノタウロスの森に入ったきり行方不明になってる」
鳥居を完全にくぐってしまった高田。後ろには由美香がいるし、そもそも道が細いために引き返すことはできない。なぜ、よりによってこのタイミングで、そんなことを言い出すのか。鏑木に内心で悪態をつきつつ、もう高田は前に進むしかなかった。
「それって、余所者が勝手にやって来て、余所者が勝手に帰っただけかもしれないだろ?」
中々動いてくれない足を踏み出しながら反論する。結局のところ、それは迷信から派生した別バージョンにすぎない。
「警察に失踪の届出が出たから騒ぎになったんだ。勝手にやってきて、勝手に帰っただけなら、警察を巻き込んでまで騒ぎは起きないだろう」
実際にここで人が行方不明になっている。それを裏付けする記事まであるようだ。そこまで信憑性がある情報ならば受け入れねばなるまい。
それだったら、ここから引き返してしまおう――と提案できたら、どれだけ楽なことか。みんな、高田が前に足を踏み出すことを待っている。懐中電灯で照らす先は、獣道のようなでこぼこな道が伸びているだけ。少し先に向かうと拓けた場所に出そうだが、とりあえず先が見通せない分、やはり恐ろしいものは恐ろしい。
すでに踏み入れてしまっていた足を、引っ込めてやろうと思った。今ならば引き返せる。まだ体の半身ほどが鳥居をくぐっただけなのだから。しかし、物理的に引き返せても、心理的に引き返すことなんてできない。自然と鏑木が提案した通りの隊形になっているし、ここで引き返してしまうのは、あまりにもダサい。ダサすぎる。
「はぁ? そんな話、大抵が作り話だろ?」
もう一歩目を踏み出してしまった手前、後ろに退くわけにはいかなった高田。さらにもう一歩前に踏み出しつつも、鏑木の言葉を鼻で笑ってやった。強がりなのは分かっている。
「いや、少なくとも新聞に載った事件もあったみたいだぞ。俺達が産まれる少し前の記事だったけど、ミノタウロスの森のことを聞きつけた、都会のミステリ研究会のメンバーだかが、ミノタウロスの森に入ったきり行方不明になってる」
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「それって、余所者が勝手にやって来て、余所者が勝手に帰っただけかもしれないだろ?」
中々動いてくれない足を踏み出しながら反論する。結局のところ、それは迷信から派生した別バージョンにすぎない。
「警察に失踪の届出が出たから騒ぎになったんだ。勝手にやってきて、勝手に帰っただけなら、警察を巻き込んでまで騒ぎは起きないだろう」
実際にここで人が行方不明になっている。それを裏付けする記事まであるようだ。そこまで信憑性がある情報ならば受け入れねばなるまい。
それだったら、ここから引き返してしまおう――と提案できたら、どれだけ楽なことか。みんな、高田が前に足を踏み出すことを待っている。懐中電灯で照らす先は、獣道のようなでこぼこな道が伸びているだけ。少し先に向かうと拓けた場所に出そうだが、とりあえず先が見通せない分、やはり恐ろしいものは恐ろしい。
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