63 / 203
第三章 惨殺による惨殺【過去 高田富臣】
6
しおりを挟む
外に出ると、閉塞的な空間から解放されたせいか、妙に静寂が耳に痛い。田舎の夜ともなれば、どこの家も寝静まり、物音ひとつ響かない。逆に、話し声などがこの時間にすると、異常なほどに目立ってしまう。
さすがに、この辺りは山肌に田畑が囲まれているだけの場所だから、多少騒いだところで地域の大人達に気づかれることはない。そのような環境もまた、ミノタウロスの森を恐ろしいものに仕立てあげているのではないだろうか。
ここに来ることを最初から想定していたから、荷物は最低限のものしか持っていない。懐中電灯は高田が持ってきたものと、鏑木が持ってきたものの2灯。女性陣に関しては、その辺は男子におまかせとばかりに手ぶらである。まぁ、高田は懐中電灯の他には軽く食べられるお菓子程度しか持ってきていない。鏑木は割と大きめのリュックを背負っているが、どういうわけか頑なに中を見せようとしなかった。
自然と高野が先頭になる。明かりを持っているのだから、自然と由美香と茜がそれぞれの近くへとやってくることになる――とは、鏑木が言っていたことであるが、どういうわけか由美香と茜は鏑木のほうへ寄っている。文字通り両手に花となった鏑木を尻目に、高田は一人で先頭を歩く形だ。正直、面白くない。
気温的には決して寒くはない季節のはずだった。けれども、ミノタウロスの森が近づくにつれて、辺りの空気がひんやりと冷たく、そしてどんよりと重たくなっているような気がした。よくも朱里は、あんな場所に一人で入ったものだ。
ようやくミノタウロスの森の入り口までやってきた。後は入り口の前を通りすぎて自転車を回収するだけ。
「――で、どうする? 由美香、帰りたかったら先に帰ってもいいぜ」
闇は無条件に恐怖を生み出す存在だ。小屋からここにたどり着くまでの間に、由美香も闇に侵食されてしまったらしい。
この暗さの中、一人で自転車をこいで帰るなんて、できるわけがない。男の高田ですら、ここから一人で帰るのは嫌だった。
「って言うかさ、この真っ暗な中、一人で女子を帰らせようとするとか、結構鬼畜だと思うんだけど」
さっきまでは、自転車を取りに行ってそのまま帰る――なんて言っていた由美香も、ここまでの短い道中で心変わりしたらしい。いいや、心変わりしてしまうほど、辺りの空気が異常なのだ。本能的に察知している恐怖心が、少しずつ浸透してくるようなイメージだ。
さすがに、この辺りは山肌に田畑が囲まれているだけの場所だから、多少騒いだところで地域の大人達に気づかれることはない。そのような環境もまた、ミノタウロスの森を恐ろしいものに仕立てあげているのではないだろうか。
ここに来ることを最初から想定していたから、荷物は最低限のものしか持っていない。懐中電灯は高田が持ってきたものと、鏑木が持ってきたものの2灯。女性陣に関しては、その辺は男子におまかせとばかりに手ぶらである。まぁ、高田は懐中電灯の他には軽く食べられるお菓子程度しか持ってきていない。鏑木は割と大きめのリュックを背負っているが、どういうわけか頑なに中を見せようとしなかった。
自然と高野が先頭になる。明かりを持っているのだから、自然と由美香と茜がそれぞれの近くへとやってくることになる――とは、鏑木が言っていたことであるが、どういうわけか由美香と茜は鏑木のほうへ寄っている。文字通り両手に花となった鏑木を尻目に、高田は一人で先頭を歩く形だ。正直、面白くない。
気温的には決して寒くはない季節のはずだった。けれども、ミノタウロスの森が近づくにつれて、辺りの空気がひんやりと冷たく、そしてどんよりと重たくなっているような気がした。よくも朱里は、あんな場所に一人で入ったものだ。
ようやくミノタウロスの森の入り口までやってきた。後は入り口の前を通りすぎて自転車を回収するだけ。
「――で、どうする? 由美香、帰りたかったら先に帰ってもいいぜ」
闇は無条件に恐怖を生み出す存在だ。小屋からここにたどり着くまでの間に、由美香も闇に侵食されてしまったらしい。
この暗さの中、一人で自転車をこいで帰るなんて、できるわけがない。男の高田ですら、ここから一人で帰るのは嫌だった。
「って言うかさ、この真っ暗な中、一人で女子を帰らせようとするとか、結構鬼畜だと思うんだけど」
さっきまでは、自転車を取りに行ってそのまま帰る――なんて言っていた由美香も、ここまでの短い道中で心変わりしたらしい。いいや、心変わりしてしまうほど、辺りの空気が異常なのだ。本能的に察知している恐怖心が、少しずつ浸透してくるようなイメージだ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説



セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる