ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第三章 惨殺による惨殺【過去 高田富臣】

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 外に出ると、閉塞的な空間から解放されたせいか、妙に静寂が耳に痛い。田舎の夜ともなれば、どこの家も寝静まり、物音ひとつ響かない。逆に、話し声などがこの時間にすると、異常なほどに目立ってしまう。

 さすがに、この辺りは山肌に田畑が囲まれているだけの場所だから、多少騒いだところで地域の大人達に気づかれることはない。そのような環境もまた、ミノタウロスの森を恐ろしいものに仕立てあげているのではないだろうか。

 ここに来ることを最初から想定していたから、荷物は最低限のものしか持っていない。懐中電灯は高田が持ってきたものと、鏑木が持ってきたものの2灯。女性陣に関しては、その辺は男子におまかせとばかりに手ぶらである。まぁ、高田は懐中電灯の他には軽く食べられるお菓子程度しか持ってきていない。鏑木は割と大きめのリュックを背負っているが、どういうわけか頑なに中を見せようとしなかった。

 自然と高野が先頭になる。明かりを持っているのだから、自然と由美香と茜がそれぞれの近くへとやってくることになる――とは、鏑木が言っていたことであるが、どういうわけか由美香と茜は鏑木のほうへ寄っている。文字通り両手に花となった鏑木を尻目に、高田は一人で先頭を歩く形だ。正直、面白くない。

 気温的には決して寒くはない季節のはずだった。けれども、ミノタウロスの森が近づくにつれて、辺りの空気がひんやりと冷たく、そしてどんよりと重たくなっているような気がした。よくも朱里は、あんな場所に一人で入ったものだ。

 ようやくミノタウロスの森の入り口までやってきた。後は入り口の前を通りすぎて自転車を回収するだけ。

「――で、どうする? 由美香、帰りたかったら先に帰ってもいいぜ」

 闇は無条件に恐怖を生み出す存在だ。小屋からここにたどり着くまでの間に、由美香も闇に侵食されてしまったらしい。

 この暗さの中、一人で自転車をこいで帰るなんて、できるわけがない。男の高田ですら、ここから一人で帰るのは嫌だった。

「って言うかさ、この真っ暗な中、一人で女子を帰らせようとするとか、結構鬼畜だと思うんだけど」

 さっきまでは、自転車を取りに行ってそのまま帰る――なんて言っていた由美香も、ここまでの短い道中で心変わりしたらしい。いいや、心変わりしてしまうほど、辺りの空気が異常なのだ。本能的に察知している恐怖心が、少しずつ浸透してくるようなイメージだ。
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