ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第三章 惨殺による惨殺【過去 高田富臣】

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 彼女は朱里のことを嘲笑うのが目的であり、元よりミノタウロスの森に入るつもりなどないのだ。

「えー、これまで親にずっと駄目だって言われ続けてた森に入るチャンスじゃん。私、行ってみたい」

 由美香とは対照的に、しっかりと準備をしてきた様子の茜。格好こそ、ロングスカートのワンピースであるが、その足元はしっかりスニーカーを履いている。

「何よりもさ、朱里のやつ――この程度じゃ分からないと思うぜ。あの馬鹿みたいに前向きで、人を疑うことをしないようなやつ、きっとミノタウロスの森でもケロッとしてるぞ。様子を見に行かないと」

 ミノタウロスの森の中で恐怖する朱里の姿を見たい――というのが本音だった。このまま彼女が森の中から出てくるのを待つだけというのは面白くない。

「どちらにせよ、高田の提案で、俺達の自転車はミノタウロスの森の入り口付近に停めてあるんだ。それを取りに向かうついでに、少し様子を見てくればいいだろ? 依田も今日の趣旨は分かっていたのだから、それに適した格好をすべきだったな」

 このままだと、ミノタウロスの森に向かう向かわないで平行線になっていたかもしれない。そこにさりげなくフォローを入れる鏑木。彼はこのグループのブレイン的な存在でもある。大抵、彼の言うことが正しかったりする。

「だって、新しく買った服を着てみたかったんだもの。この田舎じゃ、服を買っても、それを着ていく場所がないから」

 なかば開き直っている様子の由美香。その結果、新しく買った服を農作業小屋に着てくるという顛末となってしまったわけか。

「なんにせよ、一度はミノタウロスの森に向かう必要がある。その時にちょっとだけ森の中に入ってみようぜ」

 自転車を森の入り口付近に停めておくというのは、高田のアイディアだった。もし、朱里がやって来ても、他のメンバーが先に森の中に入っているような痕跡がなければ、下手をすると帰ってしまうかもしれない。だからこそ、先に森の中に入っているかのように見せかけるべく、自転車を森の入り口近くに停めてきたのだ。

「まぁ、そろそろ飽きてきたし、自転車取りに戻ったら、私そのまま帰るかも。あいつが出てくるまで待ってるとかだるいし。それに、もう二度とあの森から出てこないかもしれないわけだし」

 小さく溜め息をつきながらも立ち上がった由美香。なんだかんだでリーダー格の一言は大きい。暗黙の了解で、自転車を取りに向かう流れになった。
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