ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
59 / 203
第三章 惨殺による惨殺【過去 高田富臣】

2

しおりを挟む
 いじめという構造は、実のところ単純だったりする。産まれた場所も違えば、育ててくれた人間も違う。育ってきた環境だってまるで異なるのだから、人間の合う合わないというのは必ず出てくる。

 特に日本では、合わない人間がたまたま多かった人間こそが、いじめの対象となることが多いのであるが、ここで良くも悪くも日本の様式美が絡んでくる。

 日本はとにもかくにも調和、周囲との協調性を重視したがる。これは、将来社会に出た時に、真面目で従順、そして組織のルールに従い、周囲と協調できる人間を育て上げる必要があるからだ。

 その主たる場が学校なのである。お互いに合わない人間を、クラスというランダム要素の強い密室に放り込み、協調させようとするのだ。この時点で上手く行くなんてことは絶対にあり得ない。合わないものは合わないものとして引き離すのではなく、なんとか上手く協調できないものかと、無駄な労力を割く。

 磁石のS極とN極をくっつけようとしたところで、そもそもの性質が異なるから、くっつくわけがない。たまたまそこにN極が多ければ、N極同士でくっつくだけだ。でも、日本ではS極とN極がくっつけるように努力しましょうと言い出す国なのだ。

 解決法は簡単。S極とN極を引き離してしまえばいい。近くにいると反発し合うが、しかし離れてしまえば互いに反発し合うことはない。合う人間同士でコミニュティーを構築させればいいだけなのに、無理矢理S極をN極に変えようとするから、軋轢が生じてしまう。

 全てが父からの受け売り。その受け売りは、残念ながら息子には伝わっていない。

 まだまだ、父からの受け売りはあった。

 合わない人間同士は近づかないほうがいい。お互いに無関係、無関心なのがベストな解決法だ。けれども、人間というものは愚かなものであり、わざわざ群れを作り、その合わない人間を排除しようとする習性がある。習性と揶揄したのは、もはや人間的行為ではなく、動物的行為だからだ。

 嫌なら関わらなければいい。嫌いなら放っておけばいい。それなのに、わざわざ群れを作って、わざわざ嫌いな人間に近づいて、わざわざ攻撃をしたがるのだ。これはよく狩猟本能に例えられるらしい。

 父の言葉は立派なのかもしれないが、まるで息子に反映されないから面白い。まぁ、その類の話――父に合わせているふりをしながら、聞き流すことがほとんどであるが。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...