ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
57 / 203
第二章 動き出す狂気【現在 七色七奈】

13

しおりを挟む
 私が見たものは一体何だったのだろうか。この独特な雰囲気の田舎に帰ってきてしまったがゆえに見てしまった幻なのか。でも、確かに私は見たはずなのだ。手招きする白い手を。

 大和田の言葉に納得したものの、心のどこかでまだ納得できていなかった私は、車に戻るまでの間に何度も振り返った。もう一度、白い手が玄関先から出ていて、手招きをしていないか――と。しかし、私の期待は虚しく、廃墟の玄関は固く閉ざされたままだった。

 車に戻った途端、妙な虚無感に襲われる。赤松朱里の所在に直接コンタクトすることができる実家という武器を失ってしまったのは大きい。せめて彼女の連絡先でも分かれば、色々と変わってくるだろうに――。それらの手段が失われてしまった私は、完全なる振り出しへと戻されてしまう。

 ビデオテープを探し当てては、また次のビデオテープを探す。そのビデオテープが何本あるのか分からない上に、それを全て集めたからといって、何が起きるかなんてまるで分からない。良くも悪くも手がかりはビデオテープだけ。それ以外のアプローチの道は閉ざされてしまった。

 この場で帰ろうと思えば帰ることができただろう。残りの有給、何をするでもなく自宅で過ごすとか、買い物に出かけてみるとか、いくらでも過ごしようはあったと思う。けれども、ここまで中途半端にビデオテープを集めてしまったら――その中身を見てしまったら、もう引き戻すことなんてできない。ただでさえ増幅しつつある心のモヤモヤが残るだけだ。

「大和田さん、私のビデオデッキとかもろもろ、しばらく大和田さんのところに置かせてもらっていい?」

 本当ならば宿を探し、そこを拠点にするつもりだった。しかしながら、私が宿を借りる最大の理由は、テレビにビデオを繋ぐことであり、その環境がすでに整っているのであれば、わざわざ旅館を借りる必要はない。風呂など不便な点はあるが、中心街のほうへと車を走らせれば銭湯くらいはあるだろうし、寝るのは車中泊で充分だ。

「あ、あぁ。別に構わないけど」

 大和田自身、ビデオテープに興味があるようだし、拠点を借りるのは簡単だった。後はどれだけのビデオテープが残されているのかだ。とにかく、手がかりを失った今は、ビデオテープを一本でも多く消化するしかないだろう。

 車のエンジンをかけた私は、早速ビデオテープを確認すべく、駐在所に向かってアクセルを踏み込んだのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...