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第二章 動き出す狂気【現在 七色七奈】
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主人公の周囲で確実に異変が起きている。けれども、その現象を認識できているのは主人公だけで、他の人はまるで認識できていない。それどころか、主人公のほうがおかしいのではないかと周囲の人間が疑い始める――タイトルは覚えていないが、そんな洋画を観た記憶が蘇った。
「ん、どうかした?」
確かに、私には白い手が見えていた。しかしながら、それを大和田にも認識してもらうべく指を差したら、その手は中に引っ込んでしまった。これが、うっすらと消えてしまった――という流れならば、まだ私にしか認識できない事象として消化できたかもしれない。けれども、そうではないのだ。大和田に見つかるまいと、慌てて玄関口に引っ込んだのである。
私は思わず車から飛び出した。恐怖なんてものは、どこかにすっ飛んでしまっていた。それよりも、白い手の正体を確かめたかった。この世の中に、説明できない現象などあってはならない。もしかすると、それを確認することで、どこかで安心したいと思っていたのかもしれない。
「おい、どうしたんだ? 七色さん!」
大和田からすれば、私の行動は奇行にさえ見えたのかもしれない。背後から声が聞こえると、ドアが閉まる音がした。大和田が追ってきてくれたらしい。そう考えると、なおさらに怖いものなどなかった。
つい先ほど、白い手が引っ込んだ玄関口にたどり着くと、取っ手に両手をかけて引っ張ってみる。私の記憶をたどるまでもない。赤松朱里の実家の玄関は引き戸だったはず。
力を込めて引き戸を開けようとするが、しかし玄関はびくともしない。当たり前のように鍵がかかっているし、まるで動いてくれなかった。
「大和田さん、手伝って!」
助けを求めるには主語が足りなかったような気がした。それでも、大和田は素直に私へと力を貸してくれる。私の意図を察して、引き戸を開けようとしてくれた。しかし、私と大和田の力を合わせても無理。玄関はびくともしない。
「――七色さん。何を考えてるかは聞かないけど、ここは廃墟になってんだ。鍵だって、確か役所が管理してるはず。それに、一応まだ所有者がいるわけだから、勝手に入ったら住居不法侵入だ。やめとこう」
大和田にそう言われて、私はようやく我に返ったのかもしれなかった。笑われるかもしれないが、大和田には何があったのか素直に話した。すると「だったら、なおさらここを離れよう。悪いものが憑いてるのかもしれねぇ」と、真剣な表情で返してくれた。
「ん、どうかした?」
確かに、私には白い手が見えていた。しかしながら、それを大和田にも認識してもらうべく指を差したら、その手は中に引っ込んでしまった。これが、うっすらと消えてしまった――という流れならば、まだ私にしか認識できない事象として消化できたかもしれない。けれども、そうではないのだ。大和田に見つかるまいと、慌てて玄関口に引っ込んだのである。
私は思わず車から飛び出した。恐怖なんてものは、どこかにすっ飛んでしまっていた。それよりも、白い手の正体を確かめたかった。この世の中に、説明できない現象などあってはならない。もしかすると、それを確認することで、どこかで安心したいと思っていたのかもしれない。
「おい、どうしたんだ? 七色さん!」
大和田からすれば、私の行動は奇行にさえ見えたのかもしれない。背後から声が聞こえると、ドアが閉まる音がした。大和田が追ってきてくれたらしい。そう考えると、なおさらに怖いものなどなかった。
つい先ほど、白い手が引っ込んだ玄関口にたどり着くと、取っ手に両手をかけて引っ張ってみる。私の記憶をたどるまでもない。赤松朱里の実家の玄関は引き戸だったはず。
力を込めて引き戸を開けようとするが、しかし玄関はびくともしない。当たり前のように鍵がかかっているし、まるで動いてくれなかった。
「大和田さん、手伝って!」
助けを求めるには主語が足りなかったような気がした。それでも、大和田は素直に私へと力を貸してくれる。私の意図を察して、引き戸を開けようとしてくれた。しかし、私と大和田の力を合わせても無理。玄関はびくともしない。
「――七色さん。何を考えてるかは聞かないけど、ここは廃墟になってんだ。鍵だって、確か役所が管理してるはず。それに、一応まだ所有者がいるわけだから、勝手に入ったら住居不法侵入だ。やめとこう」
大和田にそう言われて、私はようやく我に返ったのかもしれなかった。笑われるかもしれないが、大和田には何があったのか素直に話した。すると「だったら、なおさらここを離れよう。悪いものが憑いてるのかもしれねぇ」と、真剣な表情で返してくれた。
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